AV出演は自傷行為でもあり救いでもあった 峰なゆか×戸田真琴対談(前半)
自身がAV女優として活動した経験をリアルに綴り、AV出演を選んださまざまな女性の背景や、出演強要問題にまで斬り込んだ峰なゆかの自伝的漫画『AV女優ちゃん』。現在、最新5巻が好評発売中だ。
今年5月には幼少期の記憶、AV女優時代から引退までを綴った私小説『そっちにいかないで』を上梓した戸田真琴は、『AV女優ちゃん』をどう読んだのか。AV出演前に抱いていた葛藤や「女としての価値」、さらには「自傷行為としてのAV 出演」まで話が及ぶスペシャル対談をお届けする。
11月16日に渋谷ロフト9にて峰なゆかと戸田真琴の人生相談ナイトを開催!
峰:はじめまして! 戸田さんはこれまで写真で見た感じと違う……もっと若い、というか幼い!(笑)
戸田:そうなんです。 AV女優時代にはサバを読んでいたから、まだ実年齢に追いついていないのかも(笑)。
峰:サバを読んで生活している時間が長いと、公称している年齢に雰囲気も近づいていくものなんですね。
戸田:『AV女優ちゃん』は2000年代のAV業界を描いているということで、私が活動していたとき(2016年6月~2023年1月)とは違うなと思うところもあったんですが、今も変わらないところもたくさんあって、とても面白く読ませていただきました。
峰:ありがとうございます!
戸田:1巻では、クセの強いファン の方々が登場するシーンがありますよね。いろんなAV女優さんのサインを1冊に集めたスケッチブックにサインを書くようにお願いされる……というくだりがリアルでした(笑)。
峰:あれはこちらを「一人の人間」としてではなく、一匹のポケモン扱いしてますからね!
戸田:さらにすごいところを描いているな、と思ったのが、足に障がいを抱えた男性がイベントに来て、「ブスでもおっぱいがデカいってだけでカネもらえていい仕事だねぇ!!」と峰さんに罵詈雑言を浴びせるエピソードですね。
私の場合、罵詈雑言ではないんですが、絡みシーンを拡大コピーしたものを持ってきた人から「ここにサインして!」と言われたことがあります。私からは「イヤです」とは言えないので、対応に困りましたね。
峰:それはスタッフの人がちゃんと「はがし」てくれないと!(はがし=イベントなどで迷惑行為をするファン、運営スタッフが制止して引き離すこと)
峰:AV女優のイベントって、コミュニケーションが苦手だったり、女性経験が少なかったり、いわゆる「弱者男性」もたくさん来ますよね。そして、AV女優というのは弱者である彼らが「さらに弱い立場」として見下すことができる存在だから、そういうことをする人がいるわけです。
戸田さんは過去のインタビューでは「『こいつはセクシー女優だし』と見下してほしかった」と語っていますよね。すごくおもしろい視点だなぁと思っていました。
戸田:そうですね。そのインタビューでもいろいろとお話してるんですけど、普段は人に見せないであろう体のパーツを晒しているAV女優を見て、「弱みを握った」とか「すべてを見せてくれている」と思う人もいるのも事実だと思うんです。AV女優を「見下していい職業」だと考える人もいる。
ただ私は……すくなくとも体力も気力も余っているうちは、そういう人たちに出会ったとき「あいつ、気分悪いわ~」と愚痴って終わりにしたくなくて。現役時代も「なぜ彼らは、こちらをあえて傷つけるような行動に出るのか」についてずっと考えていました。
自分よりも下だと思う相手を叩く人って、その人自体がケアや助けが必要としているんだと思うんです。特に男性は自分のケアをおざなりにしがちな傾向もあると言われているし。
峰:それを渦中にいながらも俯瞰できるのがすごい!
戸田:もちろん見下して、傷つけてくるほうが絶対に悪いし、「なんでこっちがそんなことを慮る必要があるんだ」という意見もよくわかります。
私は、育った家庭がいわゆる「機能不全家族」だったんですけど、自分が「私はこんな家庭環境に生まれた被害者だ」と思う以前に、母や姉のほうが心のケアが必要な状態だったというのもあって、他の「脆い人たち」への負い目もあったのだと思います。
峰なゆかと戸田真琴の人生相談ナイト
