日本の住宅のほとんどが“照明選び”を間違っている。「明るければいい」の誤解とは
今、住宅系のYouTube界隈を騒がせている男がいる。動画チャンネル『ジュータクギャング』の押村知也だ。設計から建築、インテリアコーディネイトに至るまで住宅に関するすべてをこなす住宅のスペシャリスト「住空間クリエイター」である。歯に衣着せぬ彼の発言は、わかりやすくて痛快。『ジュータクギャング』は、更新のたびに一般視聴者の心をつかみまくっている。
そんな押村は、これからリノベ―ションや新築住宅を建てる際には、絶対に気をつけてほしい箇所に「照明」を上げている。それはなぜか?
日本のリビングの天井に数多く取り付けられている「シーリングライト」はおなじみだろう。天井に突起した状態で付けられ、白く明るい光は、天井、床、壁を同時に照らす優れものだ。だが押村は、「シーリングライトは明るすぎです。作業には便利かもしれませんが、落ち着いて暮らすための照明ではありません」と否定的だ。使用すべきは、天井に埋め込む「ダウンライト」だという。
「戦後の日本は、エネルギー事情が悪く、夜を明るく照らすことに邁進してきました。街灯を点け、ネオンを灯し、コンビニやスーパーを増やしてきた。家庭の灯りは電球から蛍光灯に替わり、部屋を効率的に照らせるシーリングライトが主流になりました。しかし本来、夜はもっと暗くていい。現代日本の夜は、どこも明るすぎるのです。僕がダウンライトを好む理由は、光と影のグラデーションが生まれるからです。ロウソクの火、行燈の灯り、暖炉の炎、人間は長い間、濃淡のある明るさのなかで夜を過ごしてきました。家のなかで落ち着いて暮らしたいなら、光源はダウンライトのほうが適しています」
では、どんなふうにダウンライトを配灯すればいいのか。
「多くの方が誤解しているのは、ダウンライトは部屋全体を明るくするものではなく、ある部分に光を当てて照らす間接照明だということです。ダウンライトは床を照らすのではなく、壁を照らす照明です。人間が普段暮らすなかで、視線の先はどこにありますか? 床ではなく壁です。つまり壁を見て人は明るい暗いと感じているのです。一般的にダウンライトの取り付け位置は壁から60㎝ほど離れていることがあるのですが、僕は30㎝を推奨しています。壁に寄せれば寄せるほど、光の当たる箇所と当たらない箇所が生まれ陰影が生じその空間は美しく見えます。このとき使うのは、フワッと光が広がる拡散タイプです。ダウンライトを使った『一室多灯』とシーリングライトによる『一室一灯』はそもそも別世界の空間だと思ってください」
ダウンライトは床ではなく壁を照らすもの
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(おしむらともや)スタイラス所属。20代で建築、都市計画、インテリア、暮らしについてカナダ、アメリカで学び、輸入住宅などを手掛けるも挫折、住宅とは何かを見失う。大手ハウスメーカーや大手デベロッパーにコンサルティングして感じた「業界の嘘」と「都合の良い慣習」に納得できず、悪しき慣習にまみれた日本の住宅づくりからの逸脱が始まり、住宅業界の異端児となり、1000棟以上の建築設計を手掛ける。2022年7月にYoutubeチャンネル『ジュータクギャング』を開設。近著『美しい家のつくりかた』
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『美しい家のつくりかた』 1000軒の家を建ててわかったこと |
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