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「目に良いから」と大量のニンニクを食わされたまま眼科に向かわされ、泣いてしまった話

おっさん2おっさんは二度死ぬ 2nd season

眼科とニンニク

 ニンニクに含まれるビタミンAは暗い場所での視力を保つ働きがある、と何かの本に書いてあったらしい。それらの真偽はともかく、そういった「何かを食べると健康になる」という言説は、時にとんでもない事態を引き起こすことがある。  最近、あまりに目が見えなくなってきた。  もともと視力は悪いのだけど、そういった近視的な見えなさではなく、視界がぼやけるとかモヤがかかるといった類のものだった。特に寝起きなどは視界が真っ白でほとんど見えなく、それ以外にも急に眩しくなったりする場面ではほとんど見えない。暗い店内でスマホの画面を見たりしてもまったく見えないのだ。  なんらかの目の病気が疑われるので早急に眼科を受診したいところではあるのだけど、あまりの忙しさに病院に行く時間も作れず、ついつい、なんてことはまったくの嘘で、本当は受診して重大な病気であることを宣告されるのが怖くて受診できずにいた。 「そりゃあいかんよ。はやく病院に行かないと」  一緒にラーメン屋にいった知り合いの源さんが声をあげた。少し暗い店内に置かれたメニュー表を見づらそうにしている僕を見てそこまで目が悪化しているのかと驚いたらしい。 「病気なんて早く見つけたほうが治る可能性が高いんだからさ。怖がってちゃダメだよ」  僕は源さんとはまあまあ長い付き合いだけど、ここまで正論を吐く彼を見たことがない。 「わたしも去年、目の病気やりましてね、もう少し遅かったら手遅れかもしれなかったっていわれちゃいましたよ」  話に割って入ってきたのは源さんの友人でもあるラーメン店の店主だ。彼もまた結構ごもっともなことを言いながら受診を勧めてきた。

「目に良いから」と尋常じゃない量のニンニクを勧められ……

「いや、わかってるんですけどね、やっぱり緑内障とか白内障とか告知されると怖いなと踏ん切りがつかないんですよ」  いつもはあまりごもっともなことを言わない源さんと店主、そのふたりが本気のトーンでごもっともなことを言っているので、おそらく受診はした方がいいのだろう。けれどもやはり踏ん切りがつかないのだ。 「目が見えない時はニンニクだよ!」 「そうだな、目が見えない時はニンニクだな!」 「あと勇気が出ない時もニンニクだ!」 「そうだな、勇気を出したいときはニンニクだ」  突如としてそういうトーンの広告が始まったみたいに源さんと店主がニンニクを勧めてきた。どうもふたりはどこかで「ニンニクに含まれるビタミンAが目に良い」という説を読んだらしく、とにかく強烈に勧めてきた。 「さあ、ニンニクを大量に食べて眼科に行こう!(二人で声を揃えて)」  急にごもっともじゃないことを言いだしたので困惑してしまった。ニンニクが目に良いかどうかはさておき、そういうのは長いスパンで見てみて改善していくものだ。ニンニク喰って突如に見えるようにはならない。そもそも、対策してから眼科に行くのもよくわからない。  なんか、そういったタイプのステマかなと疑ってしまうくらい強烈にニンニクを勧めだしてきてちょっと怖さすら感じた。 「ニンニクのトッピング、サービスしておいたから」  店主は満面の笑顔でラーメンを運んできたのだけど、尋常じゃないレベルの量でニンニクチップが山盛りにされていた。たぶんトッピング券を10枚くらい使うレベルで盛られている。もはやラーメンにニンニクが入っているのか、ニンニクの隙間にラーメンが入っているのか分からない状態だ。
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突如、勝手に予約されて謎の眼科に行くことに
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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