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闇バイトに手を出したと思われたおっさんを皆で見守った結果、悲しいオチが待っていた

おっさんは二度死ぬ 2nd season

浅井さんの闇バイト

 僕のおっさん友人に浅井さんという男がいる。  この浅井さんは実家が太いだけのおっさんで、何かあるとすぐに「国が悪い」「政治が悪い」「世論が悪い」と社会のせいにして仕事を転々としている男だ。まあ、実家が太いので、まともに働かなくとも面白おかしく暮らしていける存在だ。  その浅井さん、仕事を転々としているならまだしも、ここ数年は完全なる無職のようで、ほとんど働かず、大木のように太い実家からいただく1日5000円の小遣いを数日貯めてスロットを打ち、勝てば豪遊、負ければ残った金で安酒を飲む、そんな日々を過ごしているらしい。  けっこういい年齢でありながら太い実家に寄りかかって生きていく、その生き方を否定するつもりはないけれども、他の友人に対しても同じように実家が太い感覚でいるから、浅井さん、周囲のおっさんと次第に疎遠になりつつあった。  早い話、こちらは働いているので、実家が太くて働かない人とは遊びの感覚がズレてくるのだ。なにせ、こちら側はまったくもって実家が太くない。働かなくてはならない。平日の夜にスロット負けたから飲もうぜといきなり誘われても難しいものがあるのだ。  そんな浅井さんだけど、心のどこかで実家が太くない人とのずれを感じたのか、次第に誘われることが少なくなっていき、このまま関係が途切れてしまうかと思われた時だった。 「長きの封印を破ってついに働くことにした」  浅井さんからそんなメッセージが届いた。  そうか、浅井さんは誰かに封印されていて働かなかったのかと、唸ると同時に、その封印がついに解かれて働くんだと少し嬉しくなった。  同時に届いた飲みの誘いに「働くことになったからスケジュール調整が大変だけど」と書かれていてイラっとしたけど、急遽、仲間内で集まって浅井さんの就労を祝う飲み会が開催されることとなった。実家の太さの違いから疎遠になりつつあった僕らがまた仲良くなるチャンスだとも思った。

ちょ、浅井さんそのバイトって……

「いやー、やっぱさ、男は働かなきゃダメなわけよ」  飲み会が始まり、浅井さんはいつも以上に饒舌だった。他のメンツも「めんどくせえなあ」と思いつつも、浅井さんが働くことを喜び、祝う雰囲気だった。それまでは順調だった。 「で、浅井さん、今度はどんな仕事をするんですか?」  僕が質問する。働かなくなる前は仕事を転々としていた浅井さん。ゲーセンの管理人をしていたと思ったらラブホの清掃をしていたり、バリバリの営業職を1日で辞めたりもしていた。その仕事にこだわりとか脈略がない感じだった。今度はどんな仕事をするのか気になったからだ。  そこで浅井さんが衝撃の一言を発する。その一言で場の空気が一変した。 「ある場所からある場所まで箱を運ぶだけだよ」  その場にいた浅井さん以外の全員が「それ闇バイトじゃねえか」という顔をしていた。あとはもう誰がそれを指摘するのかのチキンレースみたいな状態になってしまった。 「いやー、おいしい仕事もあるもんだよ」  奇しくも連日ニュースを賑わせる闇バイトの報道。そのほとんどが、手軽に大金を稼げるおいしい仕事、を入口にしている。基本的にそんなおいしい仕事なんて存在しないのだけど、多くの人が引っかかってしまうのだ。 「それって闇バイトってやつじゃないですか?」  ついに我慢できず、慎重派の山本さんが切り出した。 「あ、大丈夫、そういうんじゃないから。大丈夫、大丈夫」  浅井さんは言葉を濁す。ダメだ。完全に怪しい。 「報酬はいくらなんですか?」  僕の質問に浅井さんが得意気に答える。 「5万円」  箱をある場所からある場所に運んで5万円。完全におかしい。闇バイトだ。
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どうしてもと食い下がる浅井さんに対して我々が取った対策とは
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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