ライフ

「目に良いから」と大量のニンニクを食わされたまま眼科に向かわされ、泣いてしまった話

突如、勝手に予約されて謎の眼科に行くことに

無題95 ラーメンをトッピングしたニンニクを食べながら、言い訳をする。 「いやね、怖さもあるんですけど、眼科ってめちゃくちゃ混んでるじゃないですか。予約していってもけっこう待つことがあるのきついですよね」  これも受診にあまり乗り気ではない大きな理由だ。しかし、もう源さんと店主は止まらない。 「俺が昔いった眼科、めちゃくちゃ空いてる。おじいちゃん先生が独りでやっててさ、お化け屋敷みたいな建物でさ、患者なんていないの。そこに行ってみな! いま予約の電話してやっから」  そんな病院、それはそれで大いに問題があるんじゃないかと思いつつも、あれよあれよという間に予約の電話が終わってしまい、ラーメンをトッピングしたニンニクを完食してそのまま受診することとなった。 「頑張って受診してきな! ニンニク食べたからばっちりよ!」  なにがバッチリなのか分からないけど、とにかくそんな激励の言葉で送り出された。  さて指定された病院に到着すると、驚いたことにお化け屋敷みたいなおどろおどろしい病院は取り壊され、ものすごい綺麗な建物に変わっていた。病院名も変わっていたので、おそらく代替わりをしたんじゃないだろうか。  客なんていないと聞いていたのに、けっこう繁盛していて待合室は混みあっているし、おじいちゃん医師が独りで切り盛りしてるときいたのに、綺麗な医院内を20人くらいの若い看護師さんが闊歩していた。話が違う。 「めっちゃ若い看護婦さんだらけやん」  おじいちゃん先生しかいないと油断していたのに、若い女性だらけと判明した瞬間、下手したら致死量に相当するレベルの大量ニンニクを食べた自分のことが気になりだした。 「これはやばいことになるかもしれん」

ニンニクまみれの口臭を晒すはめに……

 しばらく待つと名前を呼ばれ、とても若くてかわいい看護師さんに連れられて視力検査室へと誘われた。  この状態で視力検査は恐ろしい。 「右です」  といった瞬間にモワッと大量のニンニクが襲い掛かり、カルテには視力検査の結果とはべつに「モルボル」と書かれるかもしれない。  そう考えると、口を閉じながら「ンミギンデスモゴォ」みたいに返答するしかない。口を閉じたままだと「下です」がメチャクチャ言い辛い。みなさんもやってみるといい。生涯でここまで苦戦した視力検査は初めてだった。  様々な検査をなんとか口を閉じたままクリアし、いよいよ眼科医の診察となる。 「緑内障ですね」 「ほんとですか」  となった瞬間にモワッとニンニクが襲い掛かるかもしれない。そうなるとカルテに「緑内障(モルボル、緑だけに)」と書かれる事態になってしまう。ここはなにを言われても黙っておかねばならない。 「うーん、とくに病気とかではないですね」  そんなはずはない。あの見づらさはおかしい。絶対に何かの疾患だ。 「そんなことないですよ。暗いところとか見えにくいですし(モワッ)」 「あー、それは加齢ですね。年を取れば見えづらくなりますよ」 「寝起きとかぜんぜん見えないですし(モワッ)」 「それは極度のドライアイですね。寝ているときは涙が分泌されないから、ドライアイがさらにひどくなって目の表面を傷つけるんです。その傷で光が乱反射して見えなくなるんです」 「極度の……(モワッ)ドライアイ……(モワッ)」  怖れていた緑内障や白内障ではなかったので安堵したけれども、たぶんカルテには「ドライアイ(モルボル)」と書かれたと思う。
次のページ
なんと密閉空間で自分の吐息を吸い続けることになってしまった
1
2
3
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


記事一覧へ
おすすめ記事