ライフ

喫茶店で隣のカップルから妙な提案をされ……物語はいつもいきなり始まる

おっさんは二度死ぬ 2nd season

君の知らない物語

 物語は思いもよらないところからやってくる。  先日のことだった。うおー、この日刊SPA!の連載「おっさんは二度死ぬ」は隔週連載だから原稿の締め切りが2週間に1回だぜ。2週間に1回って忘れちゃうんだよな。これが毎週なら木曜日って覚えているのに、さすがに2週間に1回は忘れさせるためだけに設定した極悪な締め切りじゃないか。こりゃもう編集部が極悪と言うしかない。  と、すっかり締め切りを忘れていたことを編集部に責任転嫁し、コメダ珈琲にて、うんうんと唸りながらパソコンと睨めっこしていたときのことだった。とにかく、原稿を書くにはコメダ珈琲しかないと心に決めているので、締め切り忘れてた!で即座にコメダ珈琲に移動するフットワークがあるのだ。  これは僕が持つ悪い癖なのだけど、原稿の内容を考えているときに無意識にその内容を口走ってしまうことがあるのだ。これが周囲の人間から見るとなかなかに怖い。 「ここでパンティ持ち帰りオプションが比較的に高価なオプションだってちゃんと読者に伝わるだろうか。これが高価だと伝わらないと面白さが半減だ。でも、比較的に高価なって書いちゃうのはなんか違う気がする」  こんなことを呟いていたとき、隣の老人に話しかけられた。

老人からまさかの言葉が

「ちょっといいですかな」  そう話しかけられた。穏やかでありながら強い意志を感じる口調だ。  その瞬間に、あ、やべ、また考えている内容を口にしていた、いくらなんでもパンティ持ち帰りオプションはまずかった、と申し訳ない気持ちになった。 「すいません。無意識に言葉にしちゃって……」  そう弁明しようとすると、老人は僕の言葉を遮って一喝してきた。 「そこは野暮でもちゃんと高価なオプションって書いた方が良い。そっちのほうが面白さが活きる」  まさかの文章アドバイス。しかもけっこう前向き。 「あ、ありがとうございます。参考にします」  このようにコメダ珈琲で原稿を書いていると、隣の席から物語がやってくることがある。こちらとしてもパソコンに向かって原稿という物語を紡いでいるわけで、そこに向こうからも物語がやってくるのだ。なんとも面白いものだ。
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その日もコメダで原稿を書いていた僕に訪れた事件
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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