ライフ

「目に良いから」と大量のニンニクを食わされたまま眼科に向かわされ、泣いてしまった話

なんと密閉空間で自分の吐息を吸い続けることになってしまった

「ただね、ちょっと気になるところあるなー」  意味深に切り出す眼科医。もしかして口臭か? モルボルか? と恐れたけど、どうやらそうではないらしい。視神経の部分が非常に疲労しているらしく、それによって視野が欠けてしまったりする可能性があるそうだ。 「ちょっと視野の検査をしましょうか」  また、若くてかわいい看護師さんに連れられて暗い部屋へと誘われる。 「30分くらいかかる長い検査ですが大丈夫でしょうか?」  僕は大丈夫だけど、あなたは僕のニンニクに耐えられないかもしれない、と思いつつも口を開かず、黙ってコクリと頷く。  この検査、白いドーム状になっている装置に顔を突っ込み、その内面の様々な場所がチカッと光ったのが見えたら手元のボタンを押すものだった。色々な場所が光り、その反応速度から視野が欠けている場所がないか調べるもののようだ。手元のボタンを押すだけなので口を開く必要がない。大変に助かる。  ただ、ドーム状の装置に顔を突っ込むというスタイルがよくなかった。ドームの中の空気が全て僕の吐息で塗り替えられていくのだ。そう、装置内が殺人級にニンニク臭いのだ。  え、こんなにニンニク臭いの。よくもまあ、みんな平然とした顔で俺に接することができたな。こんなの完全にモルボルじゃないか。これが30分も続くとか拷問だろ。

最後の最後に、モルボルをかましてしまった

 おそろしいことにあまりのニンニク臭にクラクラしてきた。それだけならまだいいのだけど、クラクラしすぎて目の前がチカチカしてきた。  そのニンニク臭によるチカチカと、検査のためのチカチカが全く同じで、常に光が見えている状態で、ずっと手元のボタンを押している状態になってしまった。  検査が終わり、また眼科医の診察である。 「うーん、なんか結果が微妙だな。こんな結果になるの初めて見た。本当にちゃんとやりました?」  口を開くわけにはいかないので黙って頷くしかなかった。 「まあ、きょう処方するドライアイの目薬がなくなる頃にまたきてください。もういちど検査しましょう」  今度はニンニクを食べないぞと心に刻むしかなかった。  終始、一貫して口を開かないようにしていたのに、最後のお会計のところで、予想以上に様々な検査をしたので3割負担にもかかわらずお会計が1万円を超えてしまい、手持ちの金では足りなかった。 「すいません、お金が足りないのでそこのコンビニで降ろしてきます(モワッ)」  ずっと口を開かないようにしていたのに、最後の最後で長いセリフをしゃべってしまい、さらには金が足りずにスゴスゴとATMに向かうという体たらく。ただただ涙するしかなかった。  あまりの情けなさに涙してしまい、極度のドライアイが治るんじゃないかと思ったほどだ。 <ロゴ/薊>
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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