ライフ

さよならだけが人生か。いつの世も、おっさんの悩みは面倒くさく拗れていることが多い

おっさんは二度死ぬ 2nd season

さよならだけが人生だ

 場外馬券場にいるおっさんどもはいつも悩んでいる。どの馬が来るか、いくら賭けるか、そんな悩みはもちろんなのだけど、それ以外でも悩んでいる。つくづく、おっさんとは悩める生き物なのだと思う。みなが知らないだけで、本当に呼吸をするように悩んでいるのだ。  例えば、最近、我々のグループに入ってきたニューカマーの友田さんは、いつも競馬の前段階で悩んでいる。馬券を買うにあたって情報源である競馬新聞、なにを買うか死ぬほど悩むのだ。競馬エイトを買うか、東スポを買うかだ。友田さん曰く、競馬エイトは馬に関する情報が多く、予想もしっかりしている、あと紙質もいい。けれども値段が高いのだ。東スポも悪くはないけど、なにより値段が安い。ただ競馬以外の情報が多すぎるというのだ。  たかだか数百円の差だけど、ここで奮発して競馬エイトを買うと軍資金が目減りする。それで万馬券を当てることを考えると、結果的に数百円の差が数万円、数十万円となることだってあるのだ。  友田さんはさんざん悩んだ挙句、エロいページがあるのでオおトクという理由で東スポを購入する。つまり、エロいページに見向きもせずに競馬エイトを購入したときは本気の勝負ということだ。  さて、この友田さんの悩みはまだ良い。馬券を買う前段階とはいえ、競馬新聞の悩みだ。場外馬券場で悩む内容としては適切であり自然だ。けれども、悩める葦であるおっさんは競馬とは無関係のところで悩みまくる。  ギャンブルの借金がすごすぎて親族に縁を切られた竹内さんなどはすでに競馬の悩みを超越した場所にいる。場外馬券場に来て深いため息をつき悩みを共有しようと試みる。 「なにか悩みでも?」  放置するとどんどん面倒になるので、なにがあったのか尋ねる。竹内さんは深いため息をつきながら切々と語りだす。  竹内さん、どうやらSNSに夢中らしく、お目当ての女性がいるらしい。竹内さん曰く、今はたいへんいい時代らしく、次から次へと彗星のごとく好みの女性が現れるそうだ。そんな女性たちと仲良くしようと、コメントをつけたりして積極的に絡みに行くのだけど、まったく相手にされないらしい。相手にされないならまだしも、露骨にブロックされたりするそうだ。 「そりゃそうですよ。いきなりおっさんが絡んできても若いコはビビるだけですよ」  そう助言するのだけど、竹内さんはそんなことはないと譲らない。怖がらせないように無難な返信を心掛けているそうだ。

竹内文書は想像以上にアレだった

 そこまでいうのならどんな返信をしてるのか見せてもらうことにした。竹内さんがもっとも自信のある返信を見せてくれと要求したのだ。 「これが一番いいかなあ」  そこには、けっこう加工が強めの女性の姿があり、その女性が高々とバッグを掲げて、「みてみて、かわいいバッグでしょ~」みたいな、情報価値としてなかなかの濃度というしかないポストをしていた。そこにつけた竹内さんの返信がこちらだ。 【竹内文書】 これはかわいいバッグです  無難すぎてただのオウム返しになっとるやんけ。自信もってだしてきたやつがこれかよ。あと、ハンドルネームが「竹内文書」ってなんだよ。ハンドルネームだけなかなかセンスあるやんけ。  その女性の別のポストがこうだ。 「このスイーツおいし~」  それについて無難すぎるあまりオウム返しになっている竹内文書の返信がこちら。 【竹内文書】 これはおいしいスイーツです  インプレゾンビかよ。  っていうかこれ、本当にインプレゾンビと思われてるだろ。だからブロックされるんだ。そのうち訳の分からん言語で返信しだすんじゃないか。
次のページ
おっさん中村の別格すぎる悩みとは
1
2
3
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


記事一覧へ
おすすめ記事