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“ユニクロの対極をいく”アパレル企業が、「創業から5年8ヶ月」で新規上場した納得の理由

ターゲット層でない人に知られていても…

 同社代表の木下勝寿氏の著書『売上最小化、利益最大化の法則──利益率29%経営の秘密』(ダイヤモンド社)に書かれた株主総会での一幕はとても印象的だ。  ある時、年配の男性株主が「『北の達人』の成長は聞いているけれど、具体的に製品を見たり聞いたりしたことがない。まだ成長途中だな」とコメントしたという。一見すると批判に聞こえるが、同社にとってそれは「褒め言葉」だった。  なぜなら、その株主が製品のターゲット層ではないからだ。「目の下の加齢」に悩んでいない人が、それを解消する製品について知っていても意味がない。  つまり、「目立たないプロモーションこそが最大の利益を生む」というのが同社の考えである。北の達人は、知名度向上のためだけに、資金や時間を投資していないからこそ利益が上がっているのだ。  必要としている消費者だけが製品を知り、彼らと長期にわたって関係を築く。そこから客数を少しずつ増やし、結果として知名度を自然と高めるのが理想的なアプローチであると同社は考えるのだ。  この棲み分けこそが、ブランドの価値を大きくあげ、結果的に顧客の心をつかむのだ。

棲み分けができず失速した「4℃」

 一方、上記の北の達人のような“棲み分け”ができず、失速したブランドも少なくない。宝飾品ブランドで知られる「4℃」の例はその代表的なものだろう。  4℃の商品やブランド名は、顧客の棲み分けができていないどころか、中途半端に市場に浸透しすぎたのである。  4℃は、本来訴求したい顧客層以外の、「4℃を貰っても嬉しくない女性消費者」に知名度が浸透しすぎてしまったため、Xにおいて彼女たちから「4℃のネックレスをもらっても嬉しくない」という否定的な投稿が書かれるようになってしまった。  これは、自社知名度を高めたものの、「誰に売るか」という特定のターゲット層を明確に定めなかったため起きた悲劇と言える。
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市場浸透率が低くても、ヒット商品は生み出せる
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EC・D2Cコンサルタント、Amazon研究家、株式会社GROOVE CEO。慶應義塾大学環境情報学部卒業後、新卒採用第1期生としてアマゾンジャパン合同会社に入社、出品サービス事業部にて2年間のトップセールス、同社大阪支社の立ち上げを経験。マーケティングマネージャーとしてAmazonスポンサープロダクト広告の立ち上げを経験。株式会社GROOVEおよび Amazon D2Cメーカーの株式会社AINEXTを創業。立ち上げ6年で2社合計年商50億円を達成。Youtubeチャンネル「たなけんのEC大学」を運営。紀州漆器(山家漆器店)など地方の伝統工芸の再生や、老舗刃物メーカー(貝印)のEC進出支援にも積極的に取り組む。幼少期からの鉄道好きの延長で月10日以上は日本全国を旅している

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