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デジタル化の波に乗りたくて、勉強会まで開いたおっさんたちが導き出した悲しい結論とは

おっさんは二度死ぬ 2nd season

おっさんたちのデジタルトランスフォーメーション

 昨今ではDXの波が吹き荒れている。  DXってなに?なにがデラックスなの? とその流れに取り残されてしまった、おっさん諸兄のために説明させていただくと、DXとはデジタルトランスフォーメンションのことでビッグデータなどのデータやAI、IoT技術を活用して業務や日常など様々なことを効率化していくことである。  トランスフォーメーションとは変革を表し、デジタル的な変革という意味を指す。つまり、なんらかの変革を表しているわけで、古くを懐かしみ、新しきを拒み続けるストロングスタイルのおっさんなどには少し相容れない部分がある。というか、おっさんの多くは変革を憎んでいる。  新田さんはそんなストロングスタイルおっさんの代表格みたいな存在だった。この名前に「新」が入るのにとにかく新しいもの嫌いな人で、そもそも場外馬券場で知り合ったおっさんなのだけど、とにかくアナログな人だった。  彼の信条は「馬券をネットで買うのは馬への冒涜」だった。  実はこれ、新田さんだけに限ったことではなく、おっさん競馬仲間にはまあまあ多い現象だ。GI開催日の東京競馬場の入場券がネット抽選になったことで、そこに巣食っていたおっさん連中が一斉に姿を消したなんて例もあるほどだ。ネットという単語が出てくるだけで聖水をまかれた悪霊のように消散してしまうのだ。 「俺はこうして必ず紙の馬券を買う。ネットで買うなんてまやかしよ。まぼろしよ」 と豪語していた。なにが幻なのか意味不明だ。単にネット購入馬券の手続き方法などが分からないだけであることは明白だった。

そんな化石みたいなおっさんたちを集めてDX勉強会を開いた

 しかし、そんな新しいもの嫌い新田さんにもDXの波は容赦なく襲い掛かる。  どんなきっかけがあったか定かではないけどDXの軍門に下ることを決意したようだった。ついに受け入れることを決めた新田さんの瞳は、悲しそうでもあり、また何かから解放されたかのようでもありました。  そうして、おっさん連中の間でも、ややネットに詳しそう、ということで僕に白羽の矢があたり、新田さんをはじめとしたDXを拒み続けた連中に対してDX講習会みたいなものを開催することになったのだ。まあ、僕もよく分かってはいないけど、さすがにこのおっさんどもよりはまあまあ分かっている。  新田さんが借りたという貸会議室に行ってみると、けっこうな規模でデジタルに飢えたおっさんどもが集まっており、予想していた以上にしっかりとした講習会の様相を呈していた。 「さて、みなさんはデジタルを活用してなにがしたいですか?」  僕の問いかけに反応して次々とおっさんどもの手が挙がる。 「ネットで馬券を買いたい!」 「人気の風俗嬢をネット予約したい!(電話予約だと埋まっているらしい)」 「エロい女と仲良くなりたい!」 「エロ動画を無料で観たい!」 「転売で荒稼ぎをしたい!」 「有名なユーチューバーになりたい!」 「ブレイキングダウンに出たい!」  ここまで煩悩が剥き出しな空間ってあるんだろうか。賞賛の声を贈りたくなるほどに圧倒的に煮詰められた煩悩たちがそこに存在した。金、女、暴力のオンパレードである。ブレイキングダウンとDXはそんな関係ないだろ。勝手に申し込め。
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まさかの良い質問を投げかけてきた新田
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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