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“偉大なる”水原一平にひれ伏すしかない、そんな気持ちにさせられるおっさんたちの不幸自慢大会

ossan1-1おっさんは二度死ぬ 2nd season

自分よりも負けている人

「ほんと、水谷のヤツ、とんでもねえことしてくれたもんだ」  そう憤るのは徳山さんだった。  おそらく水谷というのは間違いで、彼は水原氏について怒っているのだろうと思われる。そう、あの大谷選手の通訳だった男だ。大谷選手のお金を流用して賭博に注ぎ込み、ドジャースを解雇された男だ。水谷って間違いは記憶の過程で水原と大谷が混ざったんだと思う。  べつに徳山さんの金が盗まれたわけでもないのに、なぜここまで怒っているのかというと、どうやらそれは徳山さんが持つギャンブル理論に基づくものからきているらしい。まあ、ギャンブラーにありがちな理論だ。  徳山さんは生粋のギャンブラーで、まあ金を賭けるものならなんでもやる男だ。競馬にパチンコに競艇に競輪、なんでもやる。たぶん違法なものもやっている。「最近では一周まわって競輪にかえってきたわ」などと、なにがどう周ったのかわからないことを言う人だ。  もちろん負けてばかりであり、常に金がなく、ギャンブラーにありがちなセリフであるところの「使っちゃいけない金に手を付けてからが本番だ」どころか「使っちゃいけねえ金がなくなってからが本番だ」という、本番もなにももう金がなくなっとるやん、というしかない言葉を吐く人だ。

徳山さんは常に下を見て安心するタイプだった

 その徳山さんのギャンブル理論に「俺より負けてるやつをみつけたら負けではない」というものがある。  例えば、競馬に行き、使ってはいけない3万円を投じて負けたとしよう。いくらクズギャンブラーの徳山さんであっても3万円も負けると落ち込む。それに使っちゃいけない金だ。ここからが本番といいつつも、もう終わりだ。だからこの世の終わりのように落ち込む。  そこに、一緒に競馬に来ていた友人の釜石さんが、ちょっと入れ込んでしまって、4万円くらい負けたとしよう。それを知った徳山さんの中では「俺より負けているやつがいる」となり、それは実質的に勝ちということになるらしい。何がどうなったら勝ちに反転するのか理解できないけれども、まあ、自分より負けて不幸な人を発見して安心するという心理が働くみたいだ。  負けて落ち込み、もうギャンブルはやめると決意、しかし俺より負けてるやつがいる、つまり実質は勝ち、とまたギャンブルへと繰り出してしまうのだ。  そこで大谷選手の通訳だった水原氏の登場だ。連日のように報じられる水原氏の爆裂賭博情報。これが本当に良くないというのだ。  報道によると、水原氏が違法賭博に賭けた回数は19000回を超え、負け額も62億円に届こうかという額らしい。徳山さんは言う、これより負けることは難しい、と。  結果、競馬で10万円とか負けても、まあいいか、水谷(水原)は62億も負けてるし、それに比べたらまだまだよ、となってまったく落ち込まなくなってしまったらしい。こうして一連の報道以降、明らかに負債が増えるスピードが増えているらしい。
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そんな徳山さんに召集をかけられておっさんたちが集まった
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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