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デジタル化の波に乗りたくて、勉強会まで開いたおっさんたちが導き出した悲しい結論とは

若い女性と仲良くなりたい! その一心で捻り出したアイデア

 思えばずっとそうだった。技術の革新は頭脳集団による絶え間ぬ努力と開発によって行われるものだけど、技術の普及は煩悩によるものが大きかった。ビデオデッキだって家庭でエロいビデオを見たいという多くの煩悩によって爆発的に普及したものだ。  だから、こういう煩悩によって突き動かされることこそが真のデジタル変革、デジタルトランスフォーメーション、DXなのかもしれない。  ネットで馬券も買えるようになった。人気の風俗嬢も予約できるようになった。そしてエロ動画も観れるようになった(FANZA)。数々の煩悩を満たす手段を習得したのだけど、そこでまた新田さんが疑問を呈した。 「でも、若い女のコと仲良くなれないよな、これじゃ」  新田さんが馬券の次に重要視していたのが、若い女のコと仲良くなれることだった。ネットで馬券を買えるようになることと、若い女と仲良くなることこそが彼にとってのDXだった。 「いやあ、正直、どうやったらそうなるかわかりませんね」  ハッキリ言わせてもらうと、それはもうDXの領域を超えている。デジタルでなんとかなる問題ではない。講師の僕にできることなどないのだ。 「TikTokだな」  煩悩おっさんの誰かがポツリと呟いた。  若い女性が多く利用しているサービスを利用すれば若い女性と仲良くなれるだろうという、この世でも結構な上位で浅はかな考えだ。 「あれだろ、TikTokって若い女が踊り狂っているところだろ」  すごい語弊があるような気がするけど、あながち間違いと断じることもできないのかもしれない。

かくしてTikTokで踊ることになったおっさんたちは……

 結局、喧々囂々の議論を経て、若い女に訴求すべく、TikTokにおっさんどもが踊り狂っている動画をアップロードすることになってしまった。普段なら絶対にそんなにアクティブじゃないはずなのに、つくづく煩悩の力は強いものだ。 「ポケモンダンスってのが流行ってるんだろ、それにしよう」  動画でダンスを確認し、音楽を流して試しに踊ってみる。カメラマンは僕だ。  ぎこちないポケモンダンスを踊るおっさんどもが居並ぶ姿はなかなか画面の力が強い。ただ、若い女性に訴求できるかと言うといまいちだ。 「どうだった?」 「ポケモンダンスというよりスリラーっぽかったです。スリラーのマイケルジャクソンの後ろの人っぽかったです」  スリラーの後ろの人はかなりダンスレベルが高いんだけど、それを20段くらい落とした感じがあった。とてもじゃないがTikTokには程遠い。 「こいつだ、こいつを中心に置こう。こいつはダンスが上手いんだ」  これまであまり目立ってこなかった講習生のおっさんを中心に据える。その男は経験者なのかダンスがキレキレだ。たしかに中心に据えていればダンス動画として成り立つ。 「どうだ、これでいけるだろ」  新田さんも自信満々だ。  ただ、このキレキレのダンスのおっさん、むちゃくちゃ恰幅が良い。むちゃくちゃ横にでかい。この人を中心に据えると、この人しか映らない。なにせTikTokは画面が縦長だから、ほんとにこの人だけで画面がいっぱいになってしまう。 「画面に一人しか入りません」 「もっと引けよ」 「全員が入るように引いたら豆粒みたいで、真ん中にデカい粒のある豆粒になります!」  おっさんどもの煩悩はすごい。若い女と仲良くなりたくて汗だくになって踊る。こうやって煩悩を乗り越えて多くの技術が普及してきた歴史に思いを馳せ、グッと胸の底が熱くなるのを感じた。  なにかを普及させたいのならば煩悩に訴えかけるべきなのである。おっさんどもの煩悩の相手をしていたらマーケティングの基本みたいなところに行きついてしまった。これだからおっさんは侮れないのである。  なんとかTikTokっぽくなるように撮影しつつ、これのどこがDXなんだと疑問みたいなものが沸き上がってきた。これは断じてDXではない。  ただ、真ん中でキレキレの動きを見せる恰幅の良い彼が、めちゃくちゃマツコ・デラックスさんに似ていて、そこだけは完全にDXだった。もちろんデラックスという意味でだ。 <ロゴ/薊>
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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