日清食品はなぜ「小売店に価格引き上げの圧力」をかけたのか。即席めんトップメーカーが見せた“焦りと慢心”の二面性
中小企業コンサルタントの不破聡と申します。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、「有名企業の知られざる一面」を掘り下げてお伝えしていきます。
公正取引委員会が、8月22日「カップヌードル」の日清食品に対して警告を行いました。日清食品が定番売価と特売売価を設定した上で、小売業者にその価格を遵守するよう圧力をかけていたというもの。
一連の出来事からは、即席めんトップメーカーとしての焦りと慢心の二面性を垣間見ることができます。
公正取引委員会によると、対象となるのは「カップヌードル」「カップヌードルシーフードヌードル」「カップヌードル」「日清のどん兵衛きつねうどん」「日清焼そばU.F.O.」の5商品。2022年2月と2023年2月以降、出荷価格の引き上げに向けて社内の基準価格を改定。それを基に定番売価、特売売価を設定し、スーパーやドラッグストアなどに対して提示価格まで引き上げるよう要請しました。
小売事業者はライバル店の動向を気にするものですが、日清食品の担当者はどの店にも同様の要請を行っていることを伝達。値上げに応じるまで何度も店舗を訪問し、競合店の写真を見せて他店も値上げを行っているなどと圧力をかけたとされています。
特売を行う際は、提示価格以上とするような要請もしていました。
「希望小売価格」という言葉がある通り、メーカーは小売価格の希望を出すのが基本ルール。店頭価格は小売業者が自由に設定できます。すなわち、今回の日清食品の不当な圧力は、小売店の競争性を失わせただけでなく、商品を購入する消費者も安く購入できる機会を失わせたものでもあります。
2022年の値上げでは、メーカー希望小売価格が5~12%アップ。2023年は同じく10~13%高くなっていました。
なぜ、不当な圧力をかけることになったのでしょうか。決算資料からは、即席めんの原材料となる小麦価格高騰と、会社が高い目標を掲げていたことがその背景にあるように読み取れます。
日清食品ホールディングスは、2022年3月期の営業利益が前年同期比16.1%減の466億円でした。この期の日清食品はコロナ禍による売上増があったものの、原材料費の増加で14億円の減益となりました。
2022年はロシアによるウクライナ侵攻などで小麦価格が高騰。現在も高止まりが続いています。
しかし、その後に日清食品が値上げを行ったことで、2023年3月期は2割、2024年3月期は3割の営業増益となりました。この期に営業利益率は10%を超え、即席めんの需要が急増したコロナ禍の2021年3月期と同じ水準となりました。
減益となった2022年3月期の8%台から急回復したのです。
2024年3月期の価格改定効果による既存事業コア営業利益押し上げ効果は、プラス442億円にも及びます。原材料高によるマイナスの影響は152億円。相殺して余りある数字です。
値上げに応じるまで何度も訪問…
値上げ効果によって営業利益率は10%台に
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界
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