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イチロー氏「MLB満票殿堂入り」を阻む壁。「3089安打」では“物足りない”と判断される可能性も

 現地21日(日本時間22日)に行われる2025年度の米野球殿堂入り発表。今年度はイチロー氏の有資格1年目での選出が濃厚で、満票かどうかが焦点となっている。  イチロー氏以外には、通算251勝を挙げた左腕のCCサバシア氏も有資格1年目での選出が有力とみられている。他にもカルロス・ベルトラン氏(3年目)やビリー・ワグナー氏(10年目)など、最大で4人が同時選出を果たしそうだ。  豊作と呼ぶにふさわしい今年度の殿堂入り候補の面々だが、やはりイチロー氏の存在感は別格。デビューから10年連続200安打というメジャー唯一無二の記録を打ち立てただけでなく、2度の首位打者(2001年、04年)、歴代シーズン最多安打(04年、262安打)、10年連続ゴールドグラブ賞(01~10年)、通算509盗塁など、本塁打が全盛の“ステロイド時代”において、そのヒットメーカーぶりは異彩を放っていた。

満票での殿堂入りは至難の業といえる理由

イチロー氏

写真/産経新聞社

 殿堂入りの発表まで1週間を切った時点で、開票率は50%に近づいているが、得票率は100%を維持。このまま満票での殿堂入りなら、2019年のマリアノ・リベラ氏に次ぐ2人目で、野手としては実に初の快挙達成となる。  ただ、初年度での殿堂入りはほぼ100%確実といえる情勢にもかかわらず、満票となるとイチロー氏といえども至難の業かもしれない。  これまでベーブ・ルースやケン・グリフィーJr.といった偉大な打者も満票での受賞を逃しており、その難易度は歴史が物語っている。最近では、リベラ氏とともにヤンキースの黄金時代を支えたデレク・ジーター氏が“1票逃がし”で満票受賞を阻まれている。  ちょうど5年前、全397票のうち実に396票はジーター氏にチェックが入っていた。ところがただ一人だけ通算3465安打のジーター氏を1年目の殿堂入りにふさわしくないと判断。現地では“妨害犯”捜しも行われたというが、結局、誰が“投票しなかった”のかは不明のまま時間だけが過ぎている。幸いなことにジーター氏は、受賞スピーチで不明の1票を笑いに変えることで大人の対応を見せていた。

記者は投票内容を公表しないことも可能

 記者の多くが、正々堂々と自らの投票内容を公開する形を取っているが、それは決して義務付けられているわけではない。つまり、素性を明かさないままイチロー氏に投票しないということも可能だ。  実際に発表まで1週間を切ろうかという時点で、とある怪情報がX上に出回った。某球団の記者を名乗る人物が、イチロー氏以外のとある選手にだけ投票したというもので、日本のファンの間でも話題となった。  しかし、真偽不明の発信者は“フェイク”だったとのちに判明。イチロー氏の満票受賞の可能性はまだ残されたままだ。

“ワールドシリーズ未経験”は影響するのか

 ただ、イチロー氏にチェックを入れない記者が実際にいたとしても不思議ではないだろう。リベラ氏やジーター氏とイチロー氏との間で大きな相違点が一つある。それが、世界一を経験していないこと。  それどころか、イチロー氏はワールドシリーズにも出場していない。現役時代の大半を既存の30チームで唯一ワールドシリーズ未経験のマリナーズで過ごしたことは、イチロー氏にとって悲運の一つなのかもしれない。  ただ、大舞台に立つチャンスが全くなかったわけではない。新人王とMVPをダブル受賞したルーキーイヤーの01年はマリナーズが快進撃を見せ、116勝46敗と、実に70個もの貯金をつくった。そのチームを率いたのが他でもないイチロー氏だったわけだが、ア・リーグ優勝決定シリーズで当時ポストシーズンでは無類の強さを見せていたヤンキースに力及ばず敗れ去っている。
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メジャー通算「3089安打」では物足りない?
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1976年、和歌山県で生まれる。地元の高校を卒業後、野茂英雄と同じ1995年に渡米。ヤンキース全盛期をアメリカで過ごした。米国で大学を卒業後、某スポーツデータ会社に就職。プロ野球、MLB、NFLの業務などに携わる。現在は、MLBを中心とした野球記事、および競馬情報サイトにて競馬記事を執筆中。

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