更新日:2025年02月25日 16:50
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異国で銃を突き付けられ「持ち金を全額出すか、売春婦として働くか、死ぬかを選べ」と迫られた女性の“思いも寄らない行動”とは

日本では家庭内の問題がすべて“親のせい”になってしまう

どんなに悩んでも、自分の人生をどうにかできるのは自分だけだ。しかし、日本の教育や価値観では「主体性を伴った選択へのハードル」は、まだまだ高いと一宮さんは言う。 「日本に帰国してからは、ソーシャルワーカーとして様々な問題を抱えるお子さんや親たちと関わってきました。ですが、子どもにとって重要な選択をする場面でも、大人だけで会議するのが常。子どもの意思を重要視しない、コントロールしやすい教育のあり方に違和感を抱いていました。『子どもに権利を持たせるとわがままになる』という教育者も少なくありません。でも、現場で耳を傾けると、かつて私が経験した不満や窮屈さと同様の感情を持っている子どもの声が多く上がっていたんです」 一宮さんは、自ら事業所を立ち上げ、“対話”を最重要視する子どもとの向き合い方を提唱し続けている。 「日本では、家庭内の問題が議題として上がると、親のせいという論調になりがちです。イギリスだと、引きこもりや不登校も、個人の選択として本人が決めたことだからというように、親だけの責任という捉え方にはなりません」 もちろん怠惰に生きることを推奨しているわけではない。子どもが何かを選択する時に、リスクを説明する義務は大人にあるが、「決まっていることだからやりなさい」という言い方になってしまうことが多いだろう。 「親側がそういった強い言い方をするのは、『親が全てを子どもに与え、導いていかなければならない』という日本独自の苦しい考え方がベースにあるからだと思います。例えば、会社の上司や部下には『なぜこの作業が必要か?』と説明し、互いの認識を確認するのは当たり前なのに、対子どもとなると、その説明を怠ってしまうことが当たり前になる。なぜかと言うと、子育てをしている親側も、トップダウンの教育や子育てを受けてきたからで、そのやり方しか知らないから。子どもの権利を尊重してこなかった日本教育のツケが回ってきていると感じます」

対話によって育つ、子どもの自己肯定感

年齢や理解度に応じた方法で説明を受ける子どもの権利は、ユニセフで定められた「子どもの権利条約」の4原則の一つである「子どもの最善の利益」を導き出す上でも、必要不可欠だといえる。 「私の事業所に来ていたすぐに他害していたお子さんも、『なぜ嫌だったの?』とまず対話を基盤とした傾聴される経験を積み重ねてもらいます。それにより、人に対するアクションの最初の選択肢として、他害がなくなります。そして、まず相手の話を聞くと言う選択肢が真っ先にくるようになって。親にされたことをそのまま人にしてしまうのが子どもです。自分の意見を聞いてもらわないと、相手の意見を聞く発想に至らないのは当たり前。聞いてもらう環境で育てば、友人の話も自然と聞けるようになるもの。自己肯定感やコミュニケーション能力も育ち、対人トラブルなども少ない子どもに変化していく傾向にあります」 統合失調症を患う母により、ある意味特殊な子ども時代を過ごした一宮さんだからこそ、未就学時からの自己選択、自己主張の機会の重要性を強く実感しているという。 「大人側も権利を守られずに育ったからこそ、子どもの権利を守る方にベクトルが向かないのは仕方がない部分もあると思います。だからこそ、学校や家庭で子どもアドボケイトの重要性を多くの方に知っていただき、子どもの主体性や自己主張力が育っていく環境を意識していくことが大切です。対話をベースに子どもと共に答えを導き出すことで、『子どもの全てを親がコントロールしなくては』という親側の呪縛からの解放にも繋がり、親と子の双方に良い影響を与えることができると考えています」 ===== 誰かに尊重された人は、誰かのことも尊重する大人になり得るだろう。子どもの声を尊重し、権利を守ることは、日本という社会をより良くするために必要な条件なのかもしれない。 <取材・文/SALLiA>
歌手・音楽家・仏像オタクニスト・ライター。「イデア」でUSEN1位を獲得。初著『生きるのが苦しいなら』(キラジェンヌ株式)は紀伊國屋総合ランキング3位を獲得。日刊ゲンダイ、日刊SPA!などで執筆も行い、自身もタレントとして幅広く活動している
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