大好評発売中!『エッジな芸人たち』より、ヤーレンズの絶望と焦燥に吉田豪が斬り込む!
13組の尖った芸人たちの刺激的すぎるインタビューが収録されたムック『エッジな芸人たち』が好評発売中!
登場芸人には「野田クリスタル×高比良くるま」や「ヤーレンズ」をはじめ「トム・ブラウン」「さらば青春の光」「ウエストランド」「街裏ぴんく」「ハリウッドザコシショウ」「空気階段」「爆笑問題」など超豪華なメンバーが集結!
今回はそのなかから昨年一昨年と惜しくも優勝を逃し続けている「ヤーレンズ」のインタビューと写真を一部公開。
史上最多の組数が参加したM-1グランプリ2023。そこで僅か1票差で優勝を獲り逃した漫才コンビ・ヤーレンズ。一晩で人生が変わると言われる大舞台で、2位ながらも圧倒的な実力を見せつけた彼らだが、それぞれの受け止め方は正反対だったようで……。彼らの「ラジオや配信も見ている」と話すプロインタビュアー・吉田豪が切り込んだ(取材は2024年6月)。
――ヤーレンズのANN0聴いてますよ。
出井 え、うれしいですね!
――ひたすら楢原さんがボケて、そこに出井さんが乗っかって説明してを繰り返すあのスピード感。あのボケの数。ただし中身は何もない(笑)。そこが画期的だと思います。
楢原 1個の話を長く話すのは好きじゃないんで。普段喋ってるのがあんな感じなんです。
――日常的にああいう会話をしてるんですね。出井さんはプロレス&格闘技マニアですけど、楢原さんはどうですか?
楢原 2000年代のプロレスぐらいです。好きでもなかったんですけど、夜中までテレビを観てたらなんとなく『ワールドプロレスリング』も観てて。
吉田 猶原さんのこの淡白さの一方で橋本信也と小川直也の「俺ごと刈れ」の説明まで喜んでする出井さんとの温度差がおもしろいですよね。ヤ―レンズは死ぬほどお笑いのことを考えている出井さんと、ほとんど考えていない楢原さんのコンビだと思っていて。
出井 楢原は親に言われてよく知らないままNSCに進学したり、ほかに楽しいことがあったら今後も転職しかねない(笑)。
楢原 そうだね。今はかろうじてみんなが笑ってくれるからつなぎ止められてますけど。笑ってくれなくなったら辞めます。
――今回の取材にあたって出井さんの有料noteと電子書籍を全部読んだら、すさまじい絶望でしたね。売れる前は焦りとか怒りとかりばかり。
出井 ハハハハハ!焦りはすごくありましたね。
――そうやって相方が焦ってるとき、楢原さんはどういうテンションだったんですか?
楢原 ……相方が焦ってるのはあまりわからなかったですね。
――次々と仲間が売れていってようやく?
楢原 自分はカズレーザーが「この世代は売れる!」と言ってたけど、信じてなかった。どうせみんな売れないんだろうってなんとなく思ってたら……M-1で俺ら以外が売れて。「あ、ヤバい(笑)」とは思いました。
――周りが売れる前というのは青春感があった?
出井 うーん……それよりも絶望感みたいな、みんなうっすら腐ってる状態で。‘15~’16年頃はみんな売れそうだぞ!という、青春感があったんですよ。それがひと段落して、やっぱ売れないじゃんっという絶望。
――noteには「追い風の時期があって、しんどい時期があって、いまは無風と」も書かれていて、これもキツいんだろうなと思いながら読んでました。
出井 ありました。関係者もファンも期待しない。誰からも売れると思われていなかった時期。
吉田 その頃って、学生芸人への怒りと先輩芸人への怒りが渦巻いてたじゃないですか。
出井 ハハハハハ!かなり渦巻いてましたね、書きました。
――楢原さん自身は、他者に怒りはなかったんですか?
楢原 なかったですね。僕は目の前のものを1個ずつ消化することしか考えていなかったので。
出井 その違いはあるかもしれないです。僕は人生全体で考えたとき、この状態ヤバすぎるだろ、ここからどう巻き返すの?って心配になる。
――だから、一人でピリピリして。なのに、なんでこいつはこんなにのんきなんだよ!って。
出井 それはありました(笑)。
――こんなに違う2人なのに、M-1でトップを獲らなきゃみたいな思いだけはお互いに持ってますよね。そこはなぜ一緒なんだろうって。
楢原 M-1獲りたいのは悔しさというか。これだけ漫才やってて、こんなにウケてるのになんで認められないんだろう、ぐらいですかね。あとは漫才で食べていくためにはM-1チャンピオンっていうのがあったほうがいい。それだけです。
――漫才で食べていくためなんですね。M-1で2位になってわかりやすく人生が変わったと思うんですよ、この半年。
出井 そこもコンビでかなり温度差があるというか。僕は引っ越して結婚してちょっと太って。売れたって言われる人に起きる変化がこの半年で全部あったんですけど。逆に相方は何も変わってない。
楢原 人生が何も変わってないんですよ。
――けっこう冷めてるんですよね。楽しいかって言われると「別に」みたいな感じで。
楢原 僕は「他人依存」なんで、この何ら変わりない生活を他人が見たときにたぶん楽しくないだろうなって思うだろうから、「楽しくない」と評価しちゃう。
――忙しくなっただけで変化は別にない。一番絶望してたときでも心が折れなかったのはなぜだったんですか。
楢原 僕は仲間のおかげですね。
出井 そうだね。折れなかった理由って考えたら、うっすらずっと周りが応援してくれてたから。錦鯉さんがオススメ芸人で名前出してくれたり、モグライダー、ランジャタイがライブに僕らを呼んでくれたり。僕らが辞めないように(笑)。
やがて出井は孤独と絶望から絶叫しだす……。
好評発売中の『エッジな芸人たち』ではインタビュー完全版と未公開写真も多数収録!いますぐ要チェックだ!
ヤ―レンズ
ボケの楢原真樹(1986年、大阪府出身)とツッコミの出井隼之介(1987年、神奈川県出身)による漫才コンビ。M-1グランプリ2023準優勝。レギュラー番組はニッポン放送「ヤーレンズのオールナイトニッポン0(ZERO)」、TBSラジオ「ヤーレンズの#ふらっと」など。
取材・文/吉田豪 撮影/尾藤能暢
1970年、東京都出身。プロ書評家、プロインタビュアー、ライター。主な著書に『男気万字固め』(幻冬舎)、『人間コク宝』シリーズ(コアマガジン)、『サブカル・スーパースター鬱伝』(徳間書店)、『書評の星座』(ホーム社)など
ほかに楽しいことがあったら今後も転職しかねない楢原

「無風時代」の絶望と焦り

うっすら応援してくれていた錦鯉、モグライダー、ランジャタイ


![]() |
『エッジな芸人たち』 13組の尖った芸人たちの刺激的すぎるインタビュー集! ![]() ![]() |
【関連キーワードから記事を探す】
この記者は、他にもこんな記事を書いています