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【Jリーグ裏事情】退団・移籍報道の行間を読む

 開幕まであと一か月と少し。Jリーグの各チームは陣容も決まり、開幕を待ち遠しく思うファンも多いだろう。
Jリーグ公式サイト

Jリーグ公式サイトより

 サッカーの移籍報道などで、「●●選手、△△との契約を満了」や「●●選手、△△を退団」といった言葉を見かけたことがある読者も多いはずだ。しかも、スタメンを張るような主力級の選手でもこの扱いで、おまけに発表の時期もシーズン途中の時もあれば、シーズン終了後もあってまちまち。なぜサッカー界ではこうしたことが起こるのだろうか。サッカー事情に詳しい記者に話を聞いた。 「J1の選手は一般的に秋口から下交渉が始まり11月の初旬くらいにはクラブから来季の契約についての通告がなされます。通告は代理人と契約している選手は代理人に、代理人がいない場合は本人に通告されます。この際、来季の契約を結ばない旨を通達されると、いわゆる『契約満了』や『退団』という形で報道されます」  実はかなり早い段階で選手たちは来季の自分の立ち位置を知っているのである。  だが、発表のタイミングもバラバラ。功労者の退団が決まっているなら最終節を観に行けばよかったなど、ファンからは不満の声も聞こえる。 「退団や移籍に至るまでの流れはクラブによって違います。名古屋、浦和、マリノスといったビッグクラブだとメディアに退団情報を流す前に、JSPという代理人のネットワークに契約の情報を流します。ここで情報を得た他クラブが興味を持てば移籍交渉に繋がっていきます。JSPに情報を流すのは、クラブとして選手の再就職先の斡旋的な意味合いが強いですね。また、移籍の交渉が始まってもメディアに情報が出る場合と出ない場合があります。この辺は選手個人の考えによるところが大きい。例えば、昨年主力のディフェンダー3人を解雇した名古屋を例に取ると、あのクラスの選手ならどこかのチームにほぼ入れます。ですが、移籍情報が出たのは年が明けてから。ある選手からは早い段階で記者たちに『まだ(交渉中のチーム名は)出さないで』という要望もありました」  発表の時期についてリーグ戦の最中の発表と終了後の発表には、代理人の有無とクラブ側の意向が多分に反映されるという。 「代理人を付けているかいないかで、発表のタイミングは変わります。代理人を付けている場合は、先ほど話したJSPなどのネットワークを使って他のクラブと交渉ができます。しかし、代理人を付けていない場合はネットワークを使って他のクラブに売り込むことができません。そのため、解雇されるという情報を意図的に他クラブにアナウンスする必要が出てくるのです。解雇情報を知ったクラブから問い合わせが入ることもあるので、代理人を付けていない選手にとっては、いかに早く次のチームが決まるかは情報のリークのタイミングにもよる。そのため、代理人を付けていない選手の退団情報は比較的早く出る傾向にあります。『●●は関係者の話では来季の構想から外れている』といった類いの報道ですね」  Jリーグではあまり有名ではない若手選手でも代理人を付けるケースが多い。流動性の高いサッカー、特にJリーグでは代理人を付ければ交渉から移籍先探しまでやってくれるからだ。もし代理人を付けなければ、移籍先探しは全て選手が個人でやらなければならず、大変な手間と労力になる。ほぼ無名な選手なのに代理人? ペーペーのくせに生意気だなという意見もあるだろうが、Jリーグにおける代理人は選手にとっては大きな保険にもなっているのだ。 ◆移籍報道が歯切れが悪くなる事情  移籍報道に話を戻そう。前述したような事情に、来季の編成問題も絡んでくると移籍報道についてもかなりややこしくなる。 「来季の構想から外れて11月に契約しないという通知がされたとしても、リーグ戦終了までの間に選手がケガなどしてしまうと再度契約が結ばれるケースが少なからずある。そのため、クラブとしては当落線上で落ちた選手に関しては発表をギリギリまで伸ばしたいという思いもあるわけです。その結果、功労者であっても、リーグ戦終了後の退団発表ということになるのです。さらにここに監督人事が絡むと退団するチーム、移籍先含めて混沌とします。新監督になればチームの戦術や方針も変わります。そのため、監督人事が遅々として進まないチームは移籍で獲得する選手の発表も遅くなったりするんです」  年俸や海外移籍を巡って決裂するケースもある。 「例えば年俸3000万円のAという選手がいたとして、クラブからは1500万円の提示を受けたとします。これに納得がいけば契約。納得できなければ代理人はクラブと交渉しながらもっと良い条件のチームを探すことになります。探している最中に契約しているクラブとの契約期間が過ぎると『契約満了』として発表されます。契約期間中に移籍が合意しそうだったり具体的な交渉に入っているのであれば『●●が移籍の意思を表明』や『■■が●●の獲得に乗り出している』といった報道がなされるのです」  では、「移籍することがほぼ確実となった」など、この“ほぼ”にはどんな意味があるのだろうか。 「わかりやすいところだと、今季から名古屋で指揮を執る西野監督でしょうね。秋口から名前がずっと挙がっていましたが、正式発表はリーグ終了後。前任監督への配慮もありましたが、それ以上に大きかったのは、名古屋の人事は最終的にトヨタの株主総会で信任が必要という事務的な問題です。ビッグクラブではこうした事務的な手続きの問題によって発表が遅くなることがよくあります。ちなみに西野監督は昨秋の段階ですでに来季の構想を考え、契約満了の選手と補強について具体的な話し合いがなされたと聞きます」  ちなみに代理人制度が基本的に認められていない日本のプロ野球では、戦力外の情報は選手から意図的に流してほしいと記者たちにお願いしてくるケースが多々あるという。同じプロスポーツでも、移籍や退団を巡ってここまで報道のされ方が異なるとは……。また、海外での移籍報道はさらに複雑になってくるという。海外サッカーに詳しい記者に話を聞いた。 「例えば『ミランが本田に興味』などの報道には大きく分けて2通りの意味があります。1つは実際に移籍に向けて動こうとしている場合、そしてもう一つはチーム幹部などが記者から本田のことを聞かれたとしましょう。『本田? 素晴らしい選手だ』と言ったりしたらこれも『ミランが本田に興味』になるわけです。移籍に関する報道は日本よりもハードルが低く立ち話程度のリップサービスでも簡単に記事になります。また、情報をリークすることで交渉を有利に進めたいという、下交渉の材料に使用したいという思惑も見え隠れしますね」  これからは移籍報道の行間を読んで、選手たちがどんな状況に置かれているのか思いを馳せて頂きたい。 <取材・文/SPA!サッカー移籍情報取材班>
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