更新日:2018年02月06日 19:12
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ロシア革命から100年。共産主義の犠牲者は1億人を超えようとしている――評論家・江崎道朗

江崎道朗のネットブリーフィング 第24回】 トランプ大統領の誕生をいち早く予見していた気鋭の評論家が、日本を取り巻く世界情勢の「変動」を即座に見抜き世に問う!

労働者の天国は実は地獄だった

江崎道朗

江崎道朗(撮影/山川修一)

 昨日11月7日は、ロシア革命からちょうど100年にあたる。  このロシア革命によって政権を握ったボリシェビキ(のちのソ連共産党)が1922年に世界で初めてソ連という「共産主義」国家を樹立した(正確には「社会主義」国家と自称)。  レーニン率いるソ連は、コミンテルンという世界の共産主義者ネットワークを構築し、世界「共産」革命を目指して、世界各国に対する秘密工作を仕掛けた。世界各国のマスコミ、労働組合、政府、軍のなかに「工作員」を送り込み、秘密裏に対象国の政治を操ろうとしたのだ。  この対外工作によって世界各地に「共産党」が創設され、第二次世界大戦ののち、東欧や中欧、中国、北朝鮮、ベトナムなど世界各地に「共産主義」国家が誕生した。かくして第二次大戦後、アメリカを中心とする「自由主義圏」と、ソ連を中心とする「共産圏」によって世界は二分され、「東西冷戦」という名の紛争が各地で起こった。  20世紀は、ソ連・コミンテルン、共産主義との戦いだった。そもそも共産主義とは何か。  基本的に「格差をなくして徹底した経済的平等」を目指す考え方だ。  資本主義社会では、土地や資金、工場などの「生産手段」の私有化を認めているから金持ちと貧乏人といった格差が生まれる。地主と小作人、会社経営者と労働者といった具合だ。そこで労働者(無産階級)による政党、つまり共産党が政権を取り、共産党主導で「武力によって強制的に」地主から土地を取り上げ、会社経営者から資金と工場を取り上げ、国有化、つまり労働者全員で共有するようにすれば格差は解消され、労働者天国の社会が実現できる――と考えたわけだ。  ソ連では武力によって政権を奪取した共産党が、地主や貴族、キリスト教教会の土地を奪い、経営者たちから工場を奪い、国有化していった。財産を取られることを拒んだ地主や貴族、資本家たちは容赦なく処刑された。共産党が権力を握ったソ連に出現したのは、労働者天国などではなく、共産党幹部による独裁・恐怖政治だった。  地主が不在となった広大な農地は荒れ果て、農作物は不作になっていった。同じく共産党幹部によって強奪された工場は、きちんと稼働せず、生産力を失っていった。かくしてソ連は急速に貧しくなっていったのだが、それに不満を漏らす人々は「労働者の敵だ」と認定され、共産党によって処刑されるか、強制労働所という刑務所に送られることになった。  この「労働者の天国」という理想だが、実際は人類最大の悲劇をもたらした。  1997年、フランスの国立科学研究センターの主任研究員ステファヌ・クルトワと、フランス現代史研究所の研究員二コラ・ヴェルトは『共産主義黒書<ソ連篇>』(邦訳は恵雅堂出版)を上梓し、「共産主義」体制によってどれほどの犠牲者が出たのか、概算を示している。 ソ連/2000万人 中国共産党/6500万人 ベトナム/100万人 北朝鮮/200万人 カンボジア/200万人 東欧/100万人 ラテンアメリカ/15万人 アフリカ/170万人 アフガニスタン/150万人  総計で約1億近くもの人が「共産主義」体制によって犠牲になったと見積もっているわけだ。今から20年近く前の計算なので、北朝鮮や中国共産党支配下のチベットやウイグルの犠牲者を足せば、さらに多くが犠牲になったことになる。  こうした悲劇を繰り返さないために欧米諸国には、「共産主義」体制による犠牲者を追悼し、共産党支配の残虐さを語り継ぐ資料館が数多く作られている(写真は、ソ連及び共産党の恐怖政治の実態を示す資料館「恐怖の館(House of Terror)」。ハンガリーの首都ブタペストに建てられている)。 恐怖の館 にもかかわらず日本では、こうした「事実」が教科書にさえまともに記されず、報道もほとんどされないため、未だに共産主義に共感を持つ知識人が多い。  そもそも朝日新聞を始めとするマスコミは、これら「共産主義」国家を礼賛する記事を大量に書いてきたが、そうした「黒歴史」を反省しているとはとても思えない。マスコミは繰り返し「歴史に学べ」と主張するが、「共産主義という人類の悲劇の歴史」に学ぼうとしないのが、日本のマスコミだ。
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トランプ大統領はなぜ拉致被害者家族と会ったのか
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(えざき・みちお)1962年、東京都生まれ。九州大学文学部哲学科卒業後、石原慎太郎衆議院議員の政策担当秘書など、複数の国会議員政策スタッフを務め、安全保障やインテリジェンス、近現代史研究に従事。主な著書に『知りたくないではすまされない』(KADOKAWA)、『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』『日本占領と「敗戦革命」の危機』『朝鮮戦争と日本・台湾「侵略」工作』『緒方竹虎と日本のインテリジェンス』(いずれもPHP新書)、『日本外務省はソ連の対米工作を知っていた』『インテリジェンスで読み解く 米中と経済安保』(いずれも扶桑社)ほか多数。公式サイト、ツイッター@ezakimichio

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 ’17年、トランプ米大統領は中国を競争相手とみなす「国家安全保障戦略」を策定し、中国に貿易戦争を仕掛けた。日本は「米中対立」の狭間にありながら、明確な戦略を持ち合わせていない。そもそも中国を「脅威」だと明言すらしていないのだ。

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