更新日:2023年03月12日 09:11
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フランスvsアメリカのワイン対決。フランスワイン至上時代に起きた「パリスの審判」

― 30代が知らないと恥ずかしい! 今さら聞けないお酒のキホン第41回 ―  ドラマチックなストーリーは、酒飲みのいいつまみになります。お酒にまつわる物語は多いのですが、なかでもドラマチックなのが「パリスの審判」です。  ルーベンスの絵にもなっている、ギリシア・ローマ神話に出てくる一場面の話ではありません。ワインにまつわるパラダイムシフトを起こした大イベントです。そこまで古い話ではなく、舞台は1976年。昭和51年で、モントリオール五輪が開催され、アントニオ猪木とモハメド・アリの異種格闘技戦が行われた年でもあります。

ロンドンのナショナル・ギャラリー所蔵『パリスの審判』(ルーベンス作)

 当時、ワインといえば本場はフランスでした。古くからワインを作り、楽しんでいるフランスやイタリア、スペイン、ドイツなどは旧世界、それ以外のワインを最近作り始めた国を新世界と呼びます。新世界のワインは安価でそこそこ美味しいので、世界中で楽しまれていますが、やはりフランスのワイン界は新世界のワインを下に見る傾向がありました。もちろん、ワインラバーも高級ワインといえば、ボルドーやブルゴーニュ産というイメージを持っていました。  イギリスでワインショップとワインスクールを経営していたスティーブン・スパリュア氏は、アメリカが作るワインのクオリティが劇的に向上していることに気が付きます。ちなみに、1972年に彼が作った世界初のワインスクールは「アカデミー・デュ・ヴァン」です。日本でも1987年に青山校が開校しており、筆者もワインの勉強に通っています。  スティーブン・スパリュア氏は、アメリカ独立200周年を祝い、1976年にフランスとアメリカのワインを比較飲みする試飲会を開催しました。審査員は全員フランスワイン界の重鎮で、ワインの格付けを行う人が2人、三ツ星レストランのシェフやオーナー3人、ワインやグルメ誌から2人、アカデミー・デュ・ヴァンの講師、そして「ロマネコンティ」のDRCの共同経営者といった9人となりました。これ以上ないすごい面子です。

アメリカvsフランスのワイン対決。その結果に驚愕!

 まずは、白ワインのテイスティングです。ブラインドで行われるので、どのグラスがどの銘柄なのかはわかりません。それぞれが点数をつけていきます。今回は、フランスワインにアメリカワインがいかに迫ってきているか? という趣旨です。用意したフランスワインもボルドーとブルゴーニュの一流どころです。  結果、10本中、1位と3位、4位をアメリカワインが取りました。驚いたというレベルではないでしょう。天地がひっくり返るほどの衝撃だったはずです。事の重大さに気が付いたある審査員が審査用紙を取り返そうとした、という話もあるほどです。

1位を取った「Chateau Montelena Chardonnay 1973」を作っている、シャトーモンテレーナワイナリーのウェブサイトです。写真はパリスの審判の時の写真です

 さて、こうなっては引っ込みがつきません。後半戦となる赤ワインでは、フランスはボルドー産が用意されていました。そこで、審査員は味というよりも、ボルドー産に点数を高くつけたことでしょう。結果は、10本中、1位と5位にアメリカワインが入りました。  カリフォルニアワイン恐るべし。新世界のワインは旧世界に劣るものではない、と全世界に知れ渡ることになりました。このおかげで、カリフォルニアワインはさらに注目を集め、世界中でワインブームが盛り上がることになりました。
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10年後にリターンマッチを開催。しかし…
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お酒を毎晩飲むため、20年前にIT・ビジネスライターとしてデビュー。酒好きが高じて、2011年に原価BARをオープン。2021年3月には、原価BAR三田本店をオープンした。新型コロナウイルス影響を補填すべく、原価BARオンライン「リカーライブラリー」をスタート。YouTubeチャンネルも開設し生き残りに挑んでいる

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