エンタメ

「鬼滅の刃・刀鍛冶の里編」アニメ化決定。遊郭編の印象に残った場面をおさらい

―[鬼滅夜話]―
大正時代を舞台に、人と鬼との壮絶なバトルと登場人物が個々に背負う切ないドラマを描いた『鬼滅の刃』。’16年に「週刊少年ジャンプ」(集英社)で始まった原作マンガは、’19年のテレビアニメ放映を機にあらゆる世代から注目を浴びた。 昨年12月から始まったテレビアニメ『鬼滅の刃 遊郭編』も大反響で、その人気は衰えを知らず。そんななか、分析本として異例の売れ行きをみせるのが、主要キャラ31人のセリフに潜む心情をキャラクターごとに考察した『鬼滅夜話』だ。 短期連載第2回では、ドイツ語圏の伝承や怪異を専門とする著者の植朗子氏と、比較思想、政治史、文化研究などを専門とする研究者の鈴村裕輔氏が、研究者の視点から見た『鬼滅』の魅力とその豊かな作品世界について語り合った。 【ご注意下さい!】この記事には、漫画『鬼滅の刃』のネタバレが含まれます。

「遊郭編」で印象に残っている場面

鬼滅の刃

『鬼滅の刃』10巻(ジャンプコミックス)より

鈴村:『鬼滅夜話』を非常に楽しく拝読しました。アカデミズムの分野では、漫画やアニメは分析の手法がまだまだ発展途上なところがあるのですが、物語研究や神話学の背景がしっかりあるなかで書いていらっしゃるので、ひとつひとつの議論が地に足がついていて、素晴らしかったです。 植:ありがとうございます。自分の専門に引きつけて、モチーフ論と話型(似た系統の話の種類)分析という形で進めたのですが、読み物と考察の中間なので、他の研究者の方から見るとどうなのだろうという不安があったんですが、専門家の先生に理解していただけたのはとてもうれしいです。 ――テレビアニメでは遊郭編が最終回を迎えますが、全6エピソードのなかで、おふたりが最も『鬼滅の刃』らしいなと思ってご覧になっていたものや、印象に残っている場面は? 鈴村:全部いいですよ、と言いたいところなのですが、あえて言いますと無限城編。139話、140話でパッと画面が切り替わってみんなが一斉に無限城に連れていかれる場面。いきなりと言っていいほど急激に場面転換をして力強く最終編に突入し、脇道に逸れないで本道でまっすぐ進んでいくのが『鬼滅の刃』らしいなと思って読んでいました。 台詞だと、猗窩座が狛治のときの記憶を取り戻し、恋雪に許しを請うて、「いいんですよ」と言われる場面。植さんが何度も指摘されていますが、『鬼滅』は神も仏も救済しないんですよね、救いがないなかで、最終的にはひとりひとりの人間が問題に直面してそれを解決していく。 憎らしい敵だったはずの猗窩座が、過去の記憶が蘇ることで、なぜ自分は強さを求めるのか、それは弱いものを守れなかったからだという原点に立ち戻って、しかもそれが愛によって救済されていくこの場面は、作品の基本的な性格をよく表しているなと感じました。

頑張ってきたことを肯定してくれる存在

植:救済の形については、私の中でも結論が出ていないところなのですが、「終わり方」に救済の形を見るべきなのかなと思っていまして。不幸な形で一旦人間の生を終わらせ、そして鬼としての生を受ける……でもそれは、幸せになりたいと思って鬼になったというより、不幸のままで人生を終わらせたくないから生を継続していったのかなと思うんです。 それに対して炭治郎と禰豆子は「絶対に鬼にはならないんだ」「人間の形で生を終わらせるんだ」と、対比の関係になっています。神仏が出てくると不幸が幸福に転換されてしまうけれど、単純に幸福では終わらせないというのが鬼滅の形。鬼の前にも人の前にもさまざまな死者が出てきますが、彼らはあまり複雑なことは喋らないじゃないですか。 鈴村:「今までの生き方で良かったんだよ」というように、正しかろうが間違っていようが、今まで頑張ってきたことを肯定してくれる存在として描かれますね。
次のページ
命がけで人を信じることで救済がもたらされる物語
1
2
3
1977年和歌山県新宮市生まれ。神戸大学国際文化学研究推進センター協力研究員。大阪市立大学文学部国語・国文学科卒。大阪市立大学大学院文学研究科前期博士課程修了。神戸大学大学院国際文化学研究科後期博士課程修了。博士(学術)。専門は伝承文学、神話学、ドイツ民俗学。著書に『「ドイツ伝説集」のコスモロジー -配列・エレメント・モティーフ-』(鳥影社)、共著に『はじまりが見える世界の神話』(創元社)、『「神話」を近現代に問う』(勉誠出版)など

鬼滅夜話

キャラクター論で読み解く『鬼滅の刃』


ニュースサイト「AERAdot.」の人気連載・『鬼滅の刃』のキャラクター分析記事を大幅に加筆した『鬼滅夜話』待望の書。2020年12月から始まった神戸大学研究員の植朗子氏による分析記事は、配信されるたびにSNSで話題となり鬼滅ファンからも認知されているようになった人気連載。SNSでの「単行本で読みたい」という声にお応えし、大幅加筆&キャラクターも追加! 炭治郎や禰豆子、鬼殺隊の「柱」メンバー、鬼たちのセリフや行動の裏にあるものとは!? 全352ページで読み応えもたっぷり。鬼滅ファン必携の書!

記事一覧へ
おすすめ記事
ハッシュタグ