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近代の宿痾、「陰謀論」の真の害悪とは?<著述家・菅野完氏>

―[月刊日本]―

急拡大し、過激化した反ワクチン団体

陰謀論

写真はイメージです

 警視庁公安部は去る4月9日、東京都港区白金にある「神真都(やまと)Q」なる団体の本部や団体幹部の自宅など関係先数軒を家宅捜査した。同団体メンバー男女四人が、都内の幼児向けワクチン接種会場に不法侵入し現行犯逮捕された事件を受けての捜査だ。公安部は事件に組織的関与があったとして調べを進めている。 「神真都Q」は昨年末ごろから「トランプ大統領から公認されたQである」と自称し、「コロナは詐欺」「ワクチンは人殺し」などと叫びながら各地でデモや集会を繰り返すようになった団体で、本年3月ごろからは「ワクチン接種を推進する医療関係者は処刑する」「警察や政治家はDS(ディープステート)の回し者だから処刑する」などと主張が過激化していた。通常の刑事事件捜査としてではなく、わざわざ公安部が出張ってくることも無理はなかろう。  注目すべきはこの団体の急拡大ぶりだ。当初は珍妙な〝陰謀論〟をネット上で交換しあっていたに過ぎなかった彼らが「神真都Q」と名乗りだし団体の様相をとり始めたのは、昨年11月末のことに過ぎない。デモも昨年12月が初めてのことだった。それからわずか5ヶ月弱で、この団体は北海道から沖縄まですべての都道府県の県庁所在地でデモを隔週頻度で開催する規模までに育っている。参議院選挙でさえ合区で行われる鳥取と島根でも、それぞれ別個のデモを開催しているのだから、その急拡大ぶりと規模の大きさが窺えよう。 「神真都Q」の短期間での急拡大ぶりが象徴するように、コロナパンデミックやロシアによるウクライナ侵略など世界史的な出来事が打ち続く中、世間はいま、一種の〝陰謀論ブーム〟とも言うべき様相を呈している。読者の中にも、「コロナウイルスは、人口削減を狙う連中が仕掛けた生物兵器」だの「プーチン大統領はDSの傀儡であるウクライナ政府を駆逐しようとしている」だのといった珍妙な理屈を開陳する人物と遭遇したことがある方もおられるのではないだろうか。

陰謀論の次に湧いてくる「陰謀論」論

 ここまで陰謀論が流行し、「神真都Q」のように実害まで発生させる団体が出てくると、次に流行ってくるのが〝「陰謀論」論〟であろう。とりわけ昨今の陰謀論がその誕生と流行の場をSNSを中心としたネット空間に置いているため、「ネットにいる滑稽な人々を紹介するぞ」という、使い古された〝ネット批評〟のフォーマットに適用しやすいという側面もある。そしてこうした批評フォーマットでは「陰謀論」および「陰謀論を信じる人々」は単に、「頭の悪い無知蒙昧な人々」として処理されてしまうのが通例だ。  例えば、古谷経衡氏は「Yahoo!ニュース個人」に寄稿した「『プーチンさんを悪く言わないで!』という〝陰謀論〟動画の正体」と題する論説の中で、陰謀論を信じ込む人々を「『世界は複雑であり、一言で説明することができない』という複雑性から逃避しているだけにすぎない。何故逃避しているのかと言えば、世界の理解に必要な最低限度の知識が無いからである。何故知識がないのかと言えば、ある程度の読書習慣や情報リテラシーが少ないか絶無だからである」と切って捨てている。また、日米両国で流行している陰謀論ムーブメント「Qアノン現象」を特集で追いかける朝日新聞の取材に応じた江川紹子氏は、日本におけるQアノンを考えるうえで重要な点として、「事実と科学、思考の軽視の風潮」をあげている。(「米国発のQアノン、日本でも急拡大 垣間見える独自の『カルト性』」、2022年4月7日、朝日新聞)  だが、昨今の「陰謀論ブーム」を「陰謀論を唱えたり信じたりする人の知識のなさや科学の軽視の風潮」に求めるこうした総括は、いささか早計と言えよう。
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陰謀論の背後にある「特殊な意図」
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月刊日本2022年5月号

【特集1】「ウクライナ後」の世界
【特集2】「政治とカネ」にケジメをつけろ!
【突破者 宮崎学さんを偲ぶ】

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