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不平等が人を殺す日本社会で必要とされるもの<経済学者・水野和夫氏>

―[月刊日本]―

若者の自殺が増加

貧困

写真はイメージです

―― 水野さんは新著『次なる100年 歴史の危機から学ぶこと』(東洋経済新報社)で、資本主義が歴史の危機をもたらしてきたことを詳述しています。いま世界各国では格差と貧困が深刻化しており、日本にも3食を満足に食べられない子どもたちがたくさんいます。これはまさに歴史の危機と言っていいと思います。 水野和夫氏(以下、水野) 日本には年収200万円以下で働いている人たちが約1200万人います。1998年以降、景気の良し悪しにかかわらず増えていき、2020年までのおよそ20年間で371.3万人も増加しました。年収200万円ではギリギリの生活を送るのがやっとです。これほど多くの人たちが厳しい状況に追い込まれているのです。  日本の相対的貧困率は、1985年には12.0%でしたが、2018年には15.4%となりました。いわゆるひとり親世帯の子どもの貧困率は極端に高く、1997年の63.1%から低下したとはいえ、それでも2018年には48・1%となっています。ひとり親世帯の子どもの2人に1人が貧困に陥っているということです。  内訳を見ると、母子家庭の相対的貧困率が51.4%であるのに対して、父子家庭は22.9%です。2人親世帯の貧困率が5.9%ですから、母子家庭は8.7倍も高いことになります。この比率は2011年時では4.4倍でしたので、男女の雇用機会がどんどん不均衡化に向かっていることが読み取れます。実際、父子家庭の就業状況は、正規の職員・従業員が68.2%、派遣社員とパート・アルバイトを合わせて7.8%に対して、母子家庭では前者は44.2%、後者は48.4%に達しています。  若い人たちもしわ寄せを受けています。2020年には11年ぶりに自殺者が増加に転じましたが、10―19歳、20―29歳の若い世代の増加が目立ちました。20―29歳の自殺者は前年に比べて404人増え、増加率は19.1%となり、人数でも増加率でも最大でした。また、10―19歳の自殺者も2016年の519人から2020年には777人へと大幅に増えています。  その一方で、所得を増やしている人たちもたくさんいます。年収2000万円超の所得がある人は1998年には57.1万人でしたが、2020年には8.2万人増加して65.3万人になりました。年収2500万円超の給与所得者にいたっては1.5倍強に増えています。タワーマンションも売れており、首都圏のマンション価格はどんどん高騰し、ついにバブル期を上回りました。  国際NGOオックスファムが2022年1月に公開した報告書によると、世界のビリオネア(純資産が10億ドル以上)2660人の富の合計は13兆7660億ドルで、コロナ禍で5兆1940億ドル(2020年実質価格)増加させ、これはコロナ前の14年間の増加額4兆9100億ドル(同)を上回っています。今年の報告書は「不平等が人を殺している」(INEQUALITY KILLS)とタイトルがついています。不平等が原因で毎日少なくとも2万1300人が殺されていると言っています。これは4秒に1人が殺されていることになります。  日本にはアマゾンのジェフ・ベゾスやテスラのイーロン・マスクほどのビリオネアはいませんが、ソフトバンクの孫正義さんやユニクロの柳井正さんのような大金持ちはいます。お金の使い道がないからか、月に行くような人までいます。明日食べるご飯さえままならない人たちがいることを考えれば、あまりにも理不尽と言わざるを得ません。

資本主義の本性

―― なぜ日本でこれほど格差や貧困が拡大してしまったのでしょうか。 水野 ターニングポイントになったのは、1995年に日経連(現・経団連)が発表した報告書「新時代の『日本的経営』 挑戦すべき方向とその具体性」です。これは労働力の流動化を求めたものです。日本ではこの報告書を錦の御旗にして雇用の規制緩和がどんどん進められました。日経連の報告書が出される前年の1994年には、非正規雇用労働者は971万人で、全労働者に占める割合は20.3%でした。これが2020年には2090万人と倍増し、割合も37.2%になりました。一方、正規雇用労働者は同じ期間に3805万人から3530万人へと、275万人も減少しました。  これが労働者の賃金が下落した大きな原因です。2020年の正規社員・正職員の平均賃金は時間当たり2021円だったのに対して、それ以外の人たちは1337円と33v8%も低くなっています。働き盛りの35―54歳で見れば、非正規の賃金は正規に比べて40.7%も低く抑えられています。  もっとも、これは日本の資本家や経営者たちが変質したということではありません。資本主義の本性が臆面もなくあらわれてきたということです。  ケインズはイギリスの資本家第1号はフランシス・ドレイクだと言っています。ドレイクは16世紀のイギリスで名を馳せた海賊です。1580年にドレイクはスペインから略奪した莫大な財宝をイギリスに持ち帰ります。これをもとにイギリスは投資を行い、多くの利潤を獲得しました。ここから資本の蓄積が始まったとケインズは指摘しています。  また、マルクスはイギリスで行われたエンクロージャー(囲い込み)に注目しています。エンクロージャーとは、主に16世紀や18世紀に行われた、農地から農民を強制的に締め出して土地を囲い込む運動のことです。当時、イギリスでは毛織物産業が好調で、羊毛の需要が高まっていました。そこで、領主や地主たちは農地を耕していた農民たちを強引に追い出し、農地の周りを囲って牧場に変えました。そのため、農民たちは仕方なく都市部に流れ、賃金労働者になりました。  このように、資本主義は資本を増殖させるためなら、不当あるいは暴力的な手法さえためらいません。それが資本主義の本性なのです。  ソビエト連邦が存在した時代は、あまり無茶なことをすると革命が起きてしまうので、資本家たちにも遠慮がありました。しかし、ソ連が崩壊したことで、資本主義のライバルはいなくなりました。いくら労働者たちの賃金を低く抑えても、もはや革命は起きません。資本主義に対する歯止めがなくなったことで、格差や貧困はどんどん拡大していったのです。
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アベノミクスのツケ
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【特集1】貧困・格差が国を亡ぼす!
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