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日本人選手の通訳は「パシリ」。大谷と水原氏の関係、ギャンブル依存症につきまとう「嘘」

「大谷がギャンブルをしていたんじゃないか?」

3月20日、ソウルのスポーツバーで放映されたドジャース対パドレスの開幕戦。大谷の過去成績を表示する韓国の放送局(筆者撮影)

 3月21日、日本とアメリカ球界に衝撃が走った。大谷翔平の専属通訳を務める水原一平氏が、違法賭博に関与した疑いでロサンゼルス・ドジャースを解雇されたと報じられたのだ。  まさに寝耳に水、あまりに突然のショッキングなニュースだった。  当日、僕は韓国の首都ソウルにいて、地下鉄の車内でニュースを目にした。その日の夜、ソウル市内の繁華街にあるスポーツバーで、前日に知り合ったアメリカ人男性と日本人女性のカップルと一緒に、ドジャース対サンディエゴ・パドレスの開幕シリーズ第2戦を店内のスクリーンで見ていた。  試合を見ながら、僕は大谷と水原氏を巡るニュースについて、一緒にいたアメリカ人男性に話を振った。すると、熱心なパドレスファンであり、現在は日本に暮らしている彼はこう言った。 「大谷がギャンブルをしていたんじゃないか? 通訳が一体、どうやって何百万ドルという大金を選手の口座から持ち出せるんだ? ありえない」 「大谷は今や球界の顔だから、もし大谷が何かやらかしたら、ドジャースもMLBも彼を何としても守るだろう」  彼の仮説は、今や超スーパースターである大谷がプライベートで犯した過ちを球界が世間から隠すため、大谷の側近である水原氏が罪をかぶったのではないか、というものだった。つまり、大谷を守るために水原氏が生贄になった……と。  この信じられないような推測を聞いた僕はしかし「そんなことはありえない」と一蹴することはできなかった。彼が口にした「通訳が一体、どうやって何百万ドルという大金を選手の口座から持ち出せるんだ?」という疑問は確かに、真っ当な考えであるように思えたからだ。

野球選手の通訳という仕事

ソウルのスポーツバーでドジャース対パドレス戦を観戦するファンたち(筆者撮影)

 だが、大谷にとって水原氏が単なる「通訳」以上の存在だったことは、日本でもよく知られている。水原氏はグラウンド内でのサポートはもちろん、グラウンド外でも大谷のアメリカ生活を全面的に支えていた。  僕は日本人メジャーリーガーの通訳経験者を何人か知っているが、彼らはいずれも「通訳は仕事の一部。身の回りの世話や家族のケア、日々の雑用まで何でもやる」と言っていた。「日本人メジャーリーガーの通訳」という仕事は単なる「通訳」ではなく、ほぼ24時間体制で選手の生活をサポートするマネージャーのような仕事なのだ。ある通訳経験者は、野球選手の通訳という仕事を端的に「パシリ」と表現した。  要するに、選手がやれと言うことは何でもやる、ということだ。  こうした選手と通訳の関係はおそらく、多くのアメリカ人には理解できないものだろう。ジョブ・ディスクリプション(業務範囲)を明確にして雇用契約を結ぶ、いわゆる「ジョブ型雇用」が一般的なアメリカでは、通訳はあくまでも「通訳」であり、求められるのは「語学のプロフェッショナル」としての役割だ。  プロフェッショナルだから当然、その仕事に対して十分なリスペクトを受けるべきだし、選手の「パシリ」なんて論外だ。選手も通訳もお互いプロフェッショナルとして、対等な関係で仕事をする。  これはもちろん理想論で、実際にはアメリカでも通訳が「パシリ」になる場面もゼロではないだろう。日本人メジャーリーガーの通訳だけでなく、日本球界で外国人選手の通訳も経験したある人物は、やはり外国人選手の「パシリ」同然だったという。  しかし、大谷と水原氏が体現していたような日本人選手と通訳の関係は、おそらくアメリカ人から見て度を超えている。親密な関係と言えば聞こえは良いが、良くも悪くも距離が近すぎるのだ。
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「家族以上」の存在
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(うちの むねはる)ライター/1986年生まれ、東京都出身。国際基督教大学教養学部を卒業後、コンサルティング会社勤務を経て、フリーランスライターとして活動。「日刊SPA!」『月刊スラッガー』「MLB.JP(メジャーリーグ公式サイト日本語版)」など各種媒体に、MLBの取材記事などを寄稿。その後、「スポーティングニュース」日本語版の副編集長、時事通信社マレーシア支局の経済記者などを経て、現在はニールセン・スポーツ・ジャパンにてスポーツ・スポンサーシップの調査や効果測定に携わる、ライターと会社員の「二刀流」。著書『大谷翔平の社会学』(扶桑社新書)

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