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軽減税率が決着。財務省は大勝利で国民は地獄へ一直線【経済ブロガー・山本博一】

連載21【不安の正体――アベノミクスの是非を問う】 軽減税率案が1兆円枠でついに決着  自民と公明党、それに財務省を加えて三つ巴で議論が行われていた軽減税率案ですが、どうやら生鮮食品と加工食品を含む、約1兆円の財源枠で決着した模様です。  公明党の主張がほぼ通った形ですが、その背景には、先の安保法案で賛成に回った公明党への自民党からの配慮と思われます。安保に賛成、そのうえで軽減税率も縮小となれば、公明党の支持母体である創価学会の反発は必至。これでは来年の参議院選挙を戦えないと踏んだのです。  完全に政局的な決着です。 そもそも国民の負担軽減になっているのか?  今回の軽減税率論議のもっとも愚かな点は、軽減税率を8%ベースで考えていることです。与党、財務省は国民の「負担を軽減するため」の軽減税率だと主張していますが、軽減是率を導入しているほかの欧州各国は、生活必需品、食品にかかる税率をゼロ、もしくは半分以下の低い税率としている国がほとんどです。  つまり、 これくらい極端にやらなければ低所得者の負担軽減にはなりません。しかし、日本の軽減税率案は食品にかかる税率を8%に据え置くだけ。ほかは10%に引き上げです。「減税」ではなく、増税です。これで国民の痛税感や負担が和らぐ? バカですか?  さらに、今回1兆円の減税枠が設定されましたが、この1兆円の穴を埋めるために、どこかで調整して帳尻合わせをするのです。社会保障費を削って財源を確保するとの話もありますが……、これではトータルでの国民負担が減ったことにはなりません。  もはや、軽減税率の導入が目的化しているとしか思えません。 軽減税率は利権を生む単なるツール  こんな大して国民の負担軽減にもならない軽減税率導入を、なぜ与党、財務省は必死に導入しようとするのでしょうか? 国民のためではないなら「自分たちのため」です。そう、利権が絡んでいるのです。  軽減税率があると、各業界がこぞって「我々の業界に軽減税率を適用してください」と与党議員や財務省に陳情に現れます。ならばと、議員は献金を約束させ、財務官僚は各業界に天下りのポストを要求するわけです。  政府や官僚に、税率を調整するという「裁量」を与えてしまうとろくなことになりません。軽減税率は利権を生む単なるツールです。 景気は未だ低迷中。なぜ増税の是非が問われない?  12月8日に発表された7-9月期のGDP2次速報は、1次速報から大幅な上方修正になったものの、いまだに昨年の消費税増税の悪影響を払拭できていません。  グラフを見ればわかりますが、GDPはアベノミクスのスタートである2013年の水準に戻っただけです。 軽減税率が決着。財務省は大勝利で国民は地獄へ一直線 この状況で10%への増税を敢行すればどうなるか。GDPは2013年の水準以下に下落。民主党政権時代に逆戻りです。  本来ならば、選挙対策、党の都合、利権のためなどではなく、真に国民の生活を考えて、経済的な観点から増税の是非について議論するべき局面ですが、政治や官僚の腐敗がここまできているのかと、絶望せざるをえません。  これこそ「国民不在の政治」「民主主義の死」です。なぜマスコミは安保法案のときのように批判しないのでしょうか? 結局最後に笑ったのは財務省  今回、安倍政権は安保法案で賛成に回ってくれた公明党に譲歩する形で、軽減税率を認めました。その結果、来年衆参W選挙に持ち込み、増税をひっくり返すことが難しい状況になってしまいました。  そんなことをしたら公明党の顔に再び泥を塗ることになります。自民、安倍政権の基盤は盤石どころか、公明党の協力なしには選挙を闘い抜くことは難しい状況です。安倍首相は公明党を切ることはできませんし、切る気概もありません。  できれば、安倍首相には最後までゴネて、軽減税率の合意を先延ばしにし、軽減税率導入が間に合わない事態に追い込んでほしかったのですが、非常に残念です。  自公はこれから1兆円の財源確保についての議論に入るのでしょう。社会保障費の削減で確保するとの報道がありましたが、それだけで1兆円の調達は無理です。そうなれば財務省は基礎税率10%のさらなる引き上げを提案してくるはずです。  軽減税率の財源を消費税増税で賄うという、まったく笑えない、本末転倒としか言いようのない事態になる可能性は十分考えられます。  結局、最後に笑ったのは財務省です。  これで増税凍結への道はかなり険しいものとなりましたが、私は諦めの悪さが性分です。増税が完全に確定するまで最後まであがき続けるつもりです。 まとめ軽減税率を導入しても結局は国民の負担軽減にはならない軽減税率は利権の温床になるだけ自民は公明の顔を立てることで、来年のW選挙を自ら封印軽減税率決定により、増税凍結の道はかなり険しいものとなった結局最後に笑ったのは財務省。しかし、最後まで諦めるわけにはいかない 【山本博一】 1980年生まれ。経済ブロガー。ブログ「ひろのひとりごと」を主宰。医療機器メーカーに務める現役サラリーマン。30代子育て世代の視点から日本経済を分析、同世代のために役立つ情報を発信している。近著に『日本経済が頂点に立つこれだけの理由』(彩図社)。動画配信番組「チャンネルくらら」の『ゆる~く学ぼう!日本経済』に出演中。4児のパパ
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