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『デフレの正体』の著者が解き明かす、インフレの正体

―[月刊日本]―

金融緩和をしても消費は増えない

インフレ

写真はイメージです

―― 岸田政権はアベノミクスを引き継ぎ、金融緩和を継続しています。その影響から円安が進み、電気代やガソリン代などが上昇していますが、個別の品目を見れば値段が上がっていないものも多く、賃金も上がっていません。藻谷さんは『デフレの正体』(角川新書)以来、金融緩和を行えば景気が回復するという見方を批判してきましたが、現在の状況をどのように見ていますか。 藻谷浩介氏(以下、藻谷) 端的に言えば、アベノミクスは間違いだったということです。アベノミクスはリフレ派の理論に基づいていますが、簡単にまとめると、「金融緩和を行えば多くの人たちがインフレになると思い、物の値段が上がる前にお金を使うようになるので、消費が増えて景気が回復する」というものです。  しかし、これから物価が上がるかもしれないと思ったからといって、果たして私たちは消費に走るでしょうか。常識的に考えれば、物価が上がれば生活が苦しくなるので、節約して消費を控える人も多いでしょう。実際、最近ガソリン代が高くなっていますが、「これからどんどんガソリン代が高くなるので、その前に車に乗ってガソリンを消費しよう」といった話は聞いたことがありません。  企業も人件費を削ったり下請けに負担させることで、できるだけ価格に転嫁しないように取り組んでいます。価格転嫁して商品やサービスの値段を上げると、売り上げが落ち、結果として損をする場合があるからです。  アベノミクスが失敗だったことは、具体的な数字を見れば明らかです。最新の内閣府国民経済計算で個人消費を見ると、就職氷河期と言われた1997年は241兆円でしたが、2019年は249兆円で、ほぼ横ばいでした。2020年はコロナ禍の影響で234兆円となり、就職氷河期を下回りましたが、コロナの前でも、内需は拡大していなかったのです。  一方、金融緩和で円の流通量が増えたため、円安となって上場株の時価総額は2.6倍に上がりました。しかしドル換算では1.5倍で、さほどの上昇ではなく、しかも資産家の貯金が増えただけで、数字が示す通り個人消費には株の儲けはまったく回りませんでした。  当然に、経済も成長しません。同じ時期の名目GDPは、1997年は544兆円、2019年は558兆円でした。22年で14兆円増、年率換算で0.1%増、つまり横ばいです。2020年は542兆円で、やはり就職氷河期を下回ってしまいました。  ちなみに若者の雇用改善は、多年の少子化により新規学卒者が4割近く減った結果で、働く若者の絶対数は非正規を含めても年々減っています。これをアベノミクスの成果とするのは、悪質なフェイクニュースと言えましょう。  そもそも金融緩和は、アベノミクス以前にも20年間、続けられていました。その間、お金の量を3倍に増やしたのに、個人消費はほとんど変化しませんでした。この現実に学べば、アベノミクスで消費が増えないことは、やる前から明らかだったのです。

過度の円安は輸出産業にとってもマイナス

―― 円安になれば輸出は増えますが、ここまでガソリン代などが上がってしまうと喜んでもいられません。 藻谷 日本と同じように世界各国も金融緩和を行っていた昨年までは、円は1ドル=110円くらいで安定していました。ところが今年、世界各国が金融緩和をやめて利上げに動いたのに、日本は相変わらず金融緩和を続けたため、円は1ドル=135円まで急落してしまいました。  円安とは要するに、輸出品は買い叩かれて、輸入品は高くなるということです。ドル資産を持っている富裕層は得をしますが、円で生きる庶民には損です。自国の通貨が弱くなるのを、損をする庶民まで喜ぶ国というのは、日本くらいではないでしょうか。  経済学の授業では、輸出は円高で減り、円安で増えると教えるかもしれません。ですが実際には、日本の輸出は国外メーカー向けの機械、ハイテク部品、高機能素材が中心なので、為替レートではなく世界の景気に連動します。好景気の2021年の日本の輸出額は、82兆円と史上最高額でしたから、世界景気が下り坂の今年は、円安でも増えにくいでしょう。  国際収支を見ると、日本が黒字を稼いでいる国と赤字になっている国は、長い間ほとんど変化がありません。日本の最大のお得意様はアメリカで、2021年には11兆円の黒字を計上しました。その次は中国(+香港)で、同じく5兆3000億円の黒字を稼がせてもらいました。台湾、韓国、英国、ドイツ、インドなどに対しても、日本は常に黒字です。  これに対して、日本が赤字になっているのは、中東諸国やインドネシア、マレーシア、ロシア、オーストラリアなど、化石燃料やウランの産出国です。つまり、日本が欧米や中国から稼いだ黒字は、中東などに払う光熱費に消えているのです。  円安は、化石燃料や食料の輸入価格を自動的に高騰させ、富を国外に流出させます。今年の貿易収支が大幅な赤字に転落するのは確実です。輸出産業にとっても、輸入原材料や光熱費が高くなるのは問題で、過度の円安になると国内工場は不採算になってしまいかねません。「円安=良いこと」と機械的に覚えている人たちが、いまだにアベノミクスは成功したと言っていますが、あまりに現実がわかっていないと言えましょう。
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原発再稼働では電力を賄えない
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月刊日本2022年7月号

【特集1】アベノミクスの失敗に正面から向き合え
【特集2】日本を米中対立の戦場にするな!

【特別インタビュー】日本はどんどん戦争に近づいている/政治評論家 平野貞夫

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