第1回将棋電王戦の一日を振り返る まるで巌流島の決闘

将棋電王戦2012年1月14日に行われたプロ棋士とコンピュータが戦う『第1回 将棋電王戦』は、将棋対局ソフト「ボンクラーズ」が日本将棋連盟会長・米長邦雄永世棋聖に113手で勝利を収めた。米長会長にとって苦しい戦いが予想されていたことは以前の記事(http://nikkan-spa.jp/129925)でもお伝えした通りだが、その実際の戦いぶりはどのようなものだったのか。

当日の東京将棋会館の控え室での関係者の発言や、解説会が行われたニコニコ本社ビルでの渡辺明竜王(2007年にコンピュータ将棋ソフト「Bonanza」に勝利したトッププロ)の解説やインタビューでの発言などを交えて紹介しよう。

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対局開始予定時刻となる午前10時。東京将棋会館の控え室は、30社を超えようかという報道陣やプロ棋士・関係者でごった返し、異様な熱気と緊張感に包まれていた。ところが、米長会長はすでに着席している(※1)のに対局がなかなか始まらない。どうやらボンクラーズにトラブルがあったらしい(※2)。

ボンクラーズが遅刻するとは、まるで巌流島の宮本武蔵じゃないか、といった冗談が控え室やネット上で飛び交う。ちなみに、通常の人間同士での対局で遅刻があった場合、遅れた分の3倍が持ち時間から引かれ、持ち時間がゼロになると不戦敗になる。結局、予定から約20分ほど遅れて先手のボンクラーズが初手▲7六歩を着手し対局開始となったが、今回の対局規定に基づき、ソフトウェアではなくハードウェアのトラブルなので、持ち時間はそのままという裁定になったようだ。

そして注目の後手・米長会長の2手目は……なんと「△6二玉」!。これはプレマッチで採用して見事に撃沈し、もう指さないと会長自身も言っていた、人間同士の対局なら奇策とも言える作戦だ。意表をつかれた控え室からは「えぇ~!?」と声が上がる。こうなると、もう普通の定跡型の将棋にはならない。筆者も含めた将棋ファン的には、普通の作戦でどうなのか見てみたかったというのが本音だが、会長が一度負けたのに採用したということは、必ず勝算があるはずなのだ(※3)。

「直前に『△6二玉をやるぞ』って言われてビックリしました。でも、自信がおありのようでした。『これで行くからまあ見てろ』と」(遠山雄亮五段)

「実は一昨日、会長から作戦を見せてもらっていたんです。会長は戦型別に勝率や指し手などを大学メモにビッシリつけていて、実際に自宅のPCのボンクラーズには直近で連勝していたんです。まあ本番はマシンが違うんで、どうなるのかはわかりませんが」(渡辺明竜王)

「△6二玉」は、作戦としては相手の攻め駒の真上に王様と金銀を集め、スクラムを組んで抑えこんでいく形になる。相手がうかつに攻めて失敗したら、兵隊もろとも王様が相手陣地にタッチダウン(「入玉」)してしまおうというのだ。基本的に受身の作戦だが、基本的にコンピュータは攻め好きなのでミスが出やすくなること、また入玉されると急激に弱くなる(※4)という特性を研究した結果なのだろう。

それからは、しばらく粛々と序盤の駒組が続く。ボンクラーズは「四間飛車」を採用し、指し手は極めて常識的で、特に目立ったところはない。その一方、会長は事前の作戦通り中段に盛り上がっていく。ボンクラーズが「△6二玉」に対して「四間飛車」をやってくるというのも、予定通りらしい。ボンクラーズが会長に誘導されているような展開だ。

「(ボンクラーズの19手目▲2五飛を見て)アマチュアの方がこう指してきたら悪手ですと言います(笑)」(船江恒平四段)

しばらくは静かな戦いが続くことが予想されたため、控え室に姿を現した株式会社ドワンゴの川上量生会長に話をうかがった。

【その2】へ続く⇒http://nikkan-spa.jp/131246
ドワンゴ会長・川上量生「かけがえのないニッチ」

※1:通常タイトル戦などの大きな対局の場合、プロ棋士は和服で正座して望むことが多いが、会長は公式戦から長く離れており、体力的な部分も考慮してか、スーツで椅子に着席しての対局となったようだ。

※2:終局後の記者会見でのボンクラーズ開発者・伊藤英紀氏の説明よると、6台あるサーバの1台でハードディスクのドライブをマウント(認識)できなかったようだ。前日にもテストを行なっているので、ドキドキはしたが落ち着いて対処できたとのこと。

※3:米長会長は、ボンクラーズの元になった将棋ソフト「Bonanza」の開発者である保木邦仁氏から、ひそかに「2手目 △6二玉」が有効だと教えてもらったらしい。

※4:プロの将棋では入玉模様の将棋になることも、積極的に目指すことも少ないため、対局データが少なく、コンピュータは苦手としている。ボンクラーズに限らず、入玉模様になると将棋ソフトは強さがアマチュアレベルまで強さが落ちてしまうのだ。

取材・文/坂本寛

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