ヤクザと交友を深めた東映の俳優・制作陣たち/特別対談・杉作J太郎×坪内祐三
―[ヤクザは日本の文化だ!]―
山口組の分裂騒動が世間を騒がす今、東映ヤクザ映画を愛する2人、杉作J太郎氏と坪内祐三氏が緊急対談。現実社会のヤクザの変化と、それに伴う実録ヤクザ映画の変遷に触れながら、「今こそ観るべき作品」「今こそ作るべき実録ヤクザ映画」を語り合う!
◆ヤクザと交友を深めた東映の俳優・制作陣たち
杉作:本来ヤクザの世界は自浄作用があったんですよね。やっつけられるのは悪いヤツだったし、みんながいいヤクザになろうとした。当時の東映の実録ヤクザ映画は実際にヤクザと関わりもありましたからね。ある役者さんが言っていましたよ。「テレビに出ているような普通の役者が、ヤクザ映画をやってもつまんねえんだよ。なんでつまんないかわかるか? それはヤクザと付き合いがないからだ。悪いけど俺は日本で一番ヤクザと付き合いがある」って(笑)。
坪内:東映ではヤクザがスタッフや役者になっていたからね。
杉作:これはまた別の俳優さんが撮影中に自動車事故を起こして重傷を負ったとき、「現場にヤクザがいたから助かった」って言ってましたよ。もう死ぬかもという状態のとき、ヤクザが救急車に一緒に乗ってきて、「タバコ吸いなさい」と。それで吸ったら、本当に痛みがスーッと引いて助かったと。「さすが本物だな~!」って感銘を受けられたそうです。
坪内:それはいい話だね。あと『仁義なき戦い』とかの脚本を書いた笠原さんも、抗争のあった現地まで行って、モデル本人に取材をしていたよね。あの人の脚本と調べ方は本当にすごいよ。
杉作:プロデューサーの日下部五朗さんも、ヤクザに監禁されたことがあるとおっしゃっていました。
坪内:あと『北陸代理戦争』とかはそうだけど、実録モノで地方を扱った作品は、その土地ならではの風景を映しているのが良かったね。寅さんとか『トラック野郎』は地方に出掛けていく話だけど、こっちはそこに住んでるヤクザたちが主役だから。
杉作:ご当地ムービーですね。住んでいるヤクザと、神戸から攻めてくる山口組の物語。
坪内:それってつまり日本に戦国時代が残っていたってことだね。
杉作:そして神戸から攻めてくるのはたいてい、千葉真一か梅宮辰夫という、いかにも常識の通じなさそうなヤクザ(笑)。『北陸代理戦争』『日本の首領』『沖縄ヤクザ戦争』の千葉真一はいいですよね。
坪内:『沖縄ヤクザ戦争』は特にすごいよ。
杉作:実録モノだと思い込みが激しいトラブルメーカーですよね。今だと時代的にダメですけど、『沖縄ヤクザ戦争』では「戦争だ~い好き」なんて名セリフも残していますし。
坪内:そう、タメがあるんだよね、「だ~い好き」って(笑)。ちょうどその時期くらいからヤクザを排除する動きも出てきたね。『北陸代理戦争』は映画の公開直後にモデルになった人が死んだりもしたし。
杉作:あれなんかまさに撮って出し、現在進行形みたいな映画でしたからね。あと実録映画の衰退は、役者がいなくなったんだと思いますよ。あまりにも実録ヤクザ映画がウケて、文太さんとか渡瀬さんとか北大路さんが他社やNHKのいい仕事で引き抜かれていくわけですよ。だから役者が足りなくなり、企画が成立しなくなったのが正直なところだと思います。
坪内:チャンバラから任侠になり、ヤクザになったけど、共通するのは人数が必要ということだよね。
杉作:あと人数が多いからこそ、顔の見分けが付くことも重要。だから東映も当時は東映以外にも新劇の人とか松竹や東宝から借りたりとかいろんなジャンルの人を集めてきたんだと思うんですよ。そんな実録路線の終盤に作られたのが『日本の首領』のシリーズ。
坪内:これは大作主義映画で、三船敏郎、佐分利信だけじゃなく最後は片岡千恵蔵まで出てるもんね。
杉作:『北陸代理戦争』まではこの土地をどう取るか、守るかという映画なんですけど、『日本の首領』から経済や政治の話になっていくんですよ。それで経済ヤクザを演じるのは、たいていが松方弘樹ですよね。殴り込みに行く武闘派の千葉真一や鶴田浩二もいるんだけど、経済ヤクザの松方さんがどんどん伸びていって、カネを握っているヤクザが強くなっていく。
坪内:そのあとの総会屋の映画は名作だよね。『暴力金脈』かな。
杉作:経済ヤクザを描き出したあたりで、山口組も現代風になってます。撃ち合いじゃなくてお金の話で、最大の衝突の場が株主総会ですから。大組織になってからの難しさがわかる点も含めて、『日本の首領』はヤクザに興味がある人にはオススメです。『山口組三代目』や『日本の首領』は山口組が主人公の映画で、『北陸代理戦争』や『仁義なき戦い』シリーズは地方で迎え撃つ側の映画なので、両方の視点から観てほしいです。『日本の首領』は事実とは違うことも多いですけど(笑)。
<激推し実録映画はコレだ>
●『日本の首領』シリーズ
山口組がモデルの組織が、政界や右翼の大物、大企業と相互依存し勢力を拡大する足跡と、野望の決戦を描く。鶴田浩二、佐分利信、三船敏郎ら出演陣も豪華。1977~’78年公開
●『北陸代理戦争』
実録ヤクザ映画の最末期に作られた名作。山口組と地元ヤクザの抗争を描く作品の残虐さと、主人公のモデルの組長が映画公開直後に射殺されたことも問題に。1977年公開
【坪内祐三氏】
1958年、東京都生まれ。文芸評論家。週刊SPA!で「これでいいのだ!」連載中。近刊に『人声天語2 オンリー・イエスタデイ 2009‐2015』『編集人兼発行人かく語りき』など
【杉作J太郎氏】
漫画家、コラムニスト、俳優など幅広く活躍。「男の墓場プロダクション」代表。近著に、東映映画シリーズの著作・第4弾の『東映スピード・アクション浪漫アルバム』がある
― ヤクザは日本の文化だ! ―
―[ヤクザは日本の文化だ!]―
|
『暴力金脈』 大資本のカラクリに寄生するゴキブリ4匹! ![]() |
【関連キーワードから記事を探す】
清原容疑者、逮捕前のヤンチャ奇行に続報相次ぐ――エアガン乱射、指詰めのマネ、裸すきやき…etc.
清原容疑者逮捕の背景にあった“貧相な食生活”
ヤクザと交友を深めた東映の俳優・制作陣たち/特別対談・杉作J太郎×坪内祐三
市原隼人「怒りが僕の原動力」“理由なき反抗”を続けてきたデビュー25年の現在地
横田真悠、デビュー10周年の背中を押した“両親の一言”「生半可な気持ちで入る世界ではない」
元セクシー女優の川上なな実、過去を家族に隠さない理由「功績があって今の私たちがあることを共有したい」
「昔は自己顕示欲がすごくあった」釈由美子45歳が“子育て経験”からたどりついた境地
松本まりか39歳、無意識に抑圧していた“性”のホンネ「本能を解放することで、生きている実感を得ることもある」
統合失調症の姉を南京錠で監禁した両親。“家族という存在”を20年追い続けた監督の「真意」
「失敗から本当の血肉ができていく」内野聖陽56歳、チームワークの大切さと“若手俳優”に対する想い
永瀬正敏58歳「永遠に追いつけなくなってしまった」存在が、役者を続ける理由に
日本は「離婚=バツ」だが、フランスでは…“恋愛大国”から学ぶべき価値観
知ってる人だけ得をする。TOHOシネマズで「簡単に20%キャッシュバックを受ける方法」
「ONE PIECE 」「SLAM DUNK」の東映アニメーションが“大躍進”。「ガールズバンドクライ」DVD2万本を突破で新境地を開く
沢口靖子『科捜研の女』、リアルすぎる逮捕シーンの裏にある“東映イズム”
綾野剛に北川景子が大爆発『パンク侍、斬られて候』奇才・石井岳龍監督インタビュー
ヤクザと交友を深めた東映の俳優・制作陣たち/特別対談・杉作J太郎×坪内祐三
「東映ヤクザ映画」は日本の遺産である!<特別対談・杉作J太郎×坪内祐三>