ライフ

「疑われてるみたいで気分が悪いよ」――46歳のバツイチおじさんはデート中に怒りをあらわにした〈第22話〉

「乾杯」 赤ワインで乾杯した。料理はどれもおいしく、あっという間に平らげてしまった。

エラの休日ファッション。アメカジっぽい

俺「おいしいね!」 エラ「うん。このお店、友達のオススメなの。ずっと来たかったんだ」 赤ワインも進み、いい感じになってきた。 休日だからかエラの顔がいつもよりツヤツヤしている。 エラは俺が何を言っても静かにケラケラ笑う。 話は盛り上がり、デートっぽくなっていた。 「この後、どこに行こうかな?」 次の展開を考えていると、ふと、何か違和感を感じた。 「エラの斜め後ろのテーブルに、見覚えのある男性がいる」 ご飯を食べてる時はまったく気づかなかったが、確かにエラの斜め後ろの席に始めからずっと座っている男がいる。 誰だろう。 どこかであったような……。 年齢は30~35歳、おそらくプノンペンのローカルな人だろう。 ローカルなカンボジア人で知ってる可能性があるのはビーナスの友達のゲイくらいだけど、ゲイっぽくない。 わからん……でも見た事あるんだよなぁ。 俺は釈然としないままエラに聞いてみた。 俺「エラ、後ろの人、どこかであったような気がするんだけど……知ってる?」 エラ「知ってるよ。彼は私たちのトゥクトゥクドライバーよ」 あ、そうか!  道理で知ってるはずだ! 俺「でも、なんで彼は俺らの席のすぐ後ろでご飯食べてるの?」 エラ「彼もご飯食べるタイミングがここしかないから」 ふーん、そんなもんかぁ……。 いやいやいや! デートしてるカップルの後ろでトゥクトゥクドライバーが飯食ってたらデートにならないだろう! 俺は内心ムッとした。だが、彼はエラの仲良しなので邪険に扱うのはできないし、もしかしてこれはプノンペンでは常識的なスタイルなのかもしれない。 俺は状況を飲み込むことにした。 だが、頭の片隅にこんな疑惑が浮かんだ。 「もしかして、エラが俺を警戒してあのトゥクトゥクドライバーにお願いし、守ってるもらってるのかも……」 そう考えると、少し寂しい気持ちになった。 ご飯を食べ終え、トゥクトゥクに乗り込むと、ドライバーはすでに運転席にいた。彼は後ろを一切振り向かず、ずっと前を向いていた。 エラ「この後、どこに行きたい? 私の知ってるバーがあるけど、そこにする?」 俺は、「エラの知ってる店だとトゥクトゥクドライバーが付いてくるのではないか?」と思った。ビーナスの友達のゲイ仲間と飲み明かしたお店に行こう。あそこなら、雑居ビルの屋上だし、狭い店だし、トゥクトゥクドライバーが付いてくるとめちゃくちゃ目立つ。ついて来たら絶対に不自然だ。 俺「この近くに俺の知ってるバーがあるんだけど、そこにしない? お洒落なお店だよ」 エラ「いいよ」 俺はトゥクトゥクドライバーにGoogleMapにピン刺しされた住所を見せ、そこに向かってもらった。到着すると、トゥクトゥクドライバーが付いて来ないのを確認し、雑居ビルに入った。

雑居ビルの屋上にあるバー

今にも崩れそうな細い鉄の階段で屋上まで登った。俺が先に登り、エラは後からついて来る。5階に到着する寸前に「到着です!」と言い、手を差し出すと、エラは軽く手を握った。 エラの手は小さくて柔らかかった。 2秒くらいだったが、クールな彼女の体温を初めて感じた。 席に座り、俺はアンカービールを頼み、エラはフルーツカクテルを頼んだ。時計を見ると22時を少し回っている。 それから2人でいろんな話をした。彼女が会計士を目指し学校に通っている話や、お店の話。向こうも俺の離婚の話や日本での仕事の話、そしてこの連載の話を興味津々に聞いていた。
次のページ right-delta
気づけば、彼女のカンボジア訛りのある英語も…
1
2
3
4
5
6
7
テキスト アフェリエイト
新Cxenseレコメンドウィジェット
おすすめ記事
おすすめ記事
Cxense媒体横断誘導枠
余白
Pianoアノニマスアンケート