赤毛ヤリマンとの切ない恋の話――爪切男のタクシー×ハンター【第八話】
ちょうどそんな時、編集部に新人が入ることになった。待望の女子。もちろんラッパーではあったけども。ショートカットの小柄な女の子、髪の毛は見事な真っ赤っ赤、ティラノザウルスの刺繍が入ったスカジャンがよく似合う明るい女の子だった。同僚たちが言うには、その界隈では有名なトラブルメイカーで生粋のヤリマンビッチらしいが、誰とでも分け隔てなく接する明るい性格で職場の雰囲気を良くしてくれるし、失敗は多いが真剣に仕事に取り組む子だったので、私は赤毛のことを妹のように可愛がり、赤毛もまた私のことを兄のように慕ってくれていた。赤毛が職場に来てから、私が風俗に行く回数も男とハグする回数もみるみる減っていった。彼女のおかげで私の精神は幾分か安定を取り戻したのである。私は赤毛の天使と出会えたことを神に感謝していた。
私は赤毛の気持ちには気が付いていた。飲み会でも常に私の横が赤毛の指定席。「彼女さんと別れたら、私が彼女に立候補します!」と猛烈なアタックを何回も受けていた。過剰すぎるボディタッチも常の事。職場でも普段からベタベタしていたので、同僚たちから「唾を売ってた彼女より赤毛のヤリマンと付き合ったらいいじゃないですか!」とよく冷やかされていた。だが、赤毛のことをそういう対象としては見られなかった。正しくは、そう見ないように必死で自制していた。私では赤毛を幸せにできないと思い込んでいた。単純に自信がなかったのだ。それならまだ体だけの軽い関係の方がマシだ。「マスター、俺のセフレは赤毛の女だぜ」と小洒落たバーのカウンターでダサい台詞をつぶやいているのが私にはお似合いだ。自分の唾を変態に売りさばいて生きていたというハードな過去を持つ同棲中の彼女と、赤い髪の毛のヤリマンの間で私の心は揺れ動いていた。私にとっては、唾を売ってた女も天使だし、赤毛のヤリマンもまた天使なのだ。どうしてこの世には天使が何匹も居やがるのだろう。
『死にたい夜にかぎって』 もの悲しくもユーモア溢れる文体で実体験を綴る“野良の偉才”、己の辱を晒してついにデビュー! |
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