――3月5日、大日本プロレスの世界ストロングヘビー級王者・関本大介選手に挑戦されますが、心境は？ 鈴木：関本さんが相手で良かったです。大日本にはデスマッチとストロングがありますが、ストロングの象徴というか、体現しているのは関本さんだと思うんですよ。シングルで何回もやったことはあるんですけど、どちらかがタイトル・ホルダーというのはなかったので、そういうシチュエーションでやるのが一番きちんと勝負できるかなという気がします。 　手の合う試合ってあるじゃないですか。たぶん僕はならないんですよね。関本さんとか岡林（裕二）さんとかがやっている、ワーワーと上がっていく感じではないんです。いきなり「ワー！」となって、ハイ終わり、みたいな（笑）。ロビンソンの言っていたことを、再現しようと思っているんですよね。ロビンソンの現役時代はもちろん知らないんですが、映像で見ると自分が習ったことと似ている。それをそのままいまのプロレス界に持ち込んだら、どうなるのかなという実験をしているんです。昔のプロレスって、手の合わない試合が多かったはずなんですよ。 ――手の合う試合のほうが、いまの時代はウケる？ 鈴木：おそらくそうだと思います。時代に逆行したいわけではないんです。山登りって、1本しか道がないわけじゃないですよね。違う道から行っても山は登れる。僕はその違う道から登っていきたい。人と同じような道だったら、フリーレスラーとしては価値がないと思います。どこにでもいるような人になっちゃったら、代わりはいくらでもいるので。……と言いながら、先月1試合しかオファーが来なかったんですけど。「オファーお待ちしています」と書いておいてください（笑）。 ――この連載では「強さとはなにか」を探っているのですが、強さとはなんだと思われますか。 鈴木：継続することだと思います。例えば、大日本って試合数がすごく多いんですよね。それでも関本さんなんかは、いつでもすごい試合を見せられる。そういうのが強さだと思います。格闘技に関わらず、なんでも続けられることが強いんじゃないかなと。最終的にはそっちが勝つと思います。 ――では次の最強レスラーを指名していただけますか。 鈴木：ZERO1の田中将斗さんですかね。僕はリングの中で勝負するタイプなんですが、田中さんはリングの中ももちろんですけど、場外とか道具を使ったりとか、たぶんどのルールでも超一流。世界でも稀な選手だと思います。1回だけシングルをやって勝ったことがあるんですけど、勝った感じはなかったですね。背は僕より小さくて体は細いんですけど、パワーもあるし、速いんです。 ――ありがとうございました。 　私も片目の視力が弱い。だが、そのことを自分から人に話したことはない。コンプレックスだからだ。だから鈴木秀樹に視力について聞くのが怖かった。鈴木にとってもコンプレックスなのではないか。話すのは嫌なのではないか。そう思い込んでいた。しかし違った。事もなげに「そう、見えないんですよ」と話してくれた。その明るさこそが、鈴木の強さなのだと思った。 　大事なことを、聞くのを躊躇ってしまった。ライターとして、私はこのままではダメだと思った。今回のインタビューを通して気づいたのだ。「最強レスラー数珠つなぎ」。この連載は、プロレスという、真剣勝負そのものであることに。そうでなければ意味がないことに。私自身が変わらなければ、100回続けたところで、プロレスとはなにか。強さとはなにか。なにも見えてはこないのだろう。 【PROFILE】鈴木秀樹（すずきひでき） フリー。1980年2月28日、北海道北広島市生まれ。専門学校卒業後、上京し、都内の郵便局に勤務。2004年よりU.W.F.スネークピットジャパンに通い始める。ビル・ロビンソンにキャッチ アズ キャッチ キャンを学び、2008年11月24日、IGF愛知県体育館大会の金原弘光戦でデビュー。2014年にフリー転向。現在、大日本プロレス、ZERO1、WRESTLE-1などで活躍中。191cm、115kg。Twitter：@hidekisuzuki55 （取材・文／尾崎ムギ子　撮影／安井信介）