「乳首も弱いけど、耳たぶ舐められるのが一番好き」風俗嬢との筆談プレイ一部始終――爪切男のタクシー×ハンター【第二十七話】
もちろん、風俗でも筆談は有効なプレイになる。まず、 受付での事前の打ち合わせで、風俗嬢に声を発することを禁止してもらう。会話は筆談でのやり取りのみ。もちろん私も声を出してはいけない。静かな室内に響き渡るのはメモ帳にペンを走らせる音だけだ。ホテルに訪ねてきた風俗嬢の顔、匂い、服装から彼女がどんな声をしているのかを想像して楽しむ。その日の風俗嬢は、髪は黒髪のショートボブ、目は細め、スリムな体形にノースリーブの服装がよく似合う女の子。たとえて言うなら、岩崎恭子のエロ要素を三倍増しにしたような感じだ。
「かえでと申します。今日はよろしくお願い致します」
「かえでさん、素敵な名前ですね。すごく可愛い人なので嬉しいです」
「ありがとうございます、先にシャワー浴びますか? それとも一緒に?」
「一緒にお願いします」
「かえでさんはコスプレとかできますか?」
「コスプレは別料金となっております」
以上のようなやり取りを筆談で行うだけで、風俗の下世話な会話がちょっと上品なものになる。風俗嬢が書く字がどんな字なのかを見られるだけでも嬉しいものだ。
肝心のプレイ内容だが、お互いに喘ぎ声を出さずに交わることを心がける。茶道の達人が静かに茶を立てるように静かに行うのだ。声を立てない約束をしているのにもかかわらず、わずかに漏れてくる風俗嬢の喘ぎ声を聴いた時は、たまらない興奮を覚える。
私はかえでの乳首を反時計回りにいやらしく舐めながらペンを走らせる。
「かえでさんは乳首が感じるんですか?」
少しは感じているのか、かえでは言葉では答えずに震えた文字で答える。
「乳首も弱いけど、耳たぶ舐められるのが一番好き」
鼻息を荒げながら、更に私は綴る。
「かえでさんの耳たぶ舐めてもいいですか?」
快感で、声でも文字でも答えることができないかえでは、恥ずかしそうに頷くだけだった。
夢のようなプレイが終わった後に、お互いが書いたメモ帳を見直す。快感により徐々に乱れていく字が生々しくてよい。そして、短くてもよいので、今回の情事の感想文をお互いに書く。
「今日は本当に気持ちよかったです。お客さんの指使いがエッチだったから。かえで」
口に出して言われると嘘臭く聞こえるであろう風俗嬢の営業トークも、このように文字に起こしてもらうことで、胸に染み入る言葉になる。この感想文はありがたく家に持ち帰る。筆談プレイのクライマックスは、ホテルを出てお別れをする時に訪れる。
「さようなら」
「さようなら」
先ほどまで情事に及んでいた二人が、別れ際に初めてお互いの声を聴くのである。高い声、低い声、しゃがれ声、なんだってかまわない。声を聴けたという感動がたまらないのだ。それに、初めて声に出してもらった言葉が別れの言葉だなんて、西部劇みたいで恰好良い。風俗嬢の声を頭の中で何回もリピートしながら、男は一人寂しく家路に着く。
最近はメールやLINEでのやり取りが増えたことで、他人が直筆で書いた字を目にする機会が減っている。時代の流れなので仕方ないことだとは思うが、せめて自分の愛する人がどんな字を書くのかぐらいは知っておくといい。きっとその人が書く字のことも好きになるはずだし、もし、愛する人から自分の字が好きだと言われたらちょっと興奮。
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