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「乳首も弱いけど、耳たぶ舐められるのが一番好き」風俗嬢との筆談プレイ一部始終――爪切男のタクシー×ハンター【第二十七話】

 終電がとうにない深夜の街で、サラリーマン・爪切男は日々タクシーをハントしていた。渋谷から自宅までの乗車時間はおよそ30分――さまざまなタクシー運転手との出会いと別れを繰り返し、密室での刹那のやりとりから学んだことを綴っていきます。 【第二十七話】何色でもいい。自分が綺麗だと思う虹を大事にすればいい。  私と彼女。性格も考え方も真逆だし、服、音楽、食べ物の嗜好まで全く違う二人だったが、風邪を引くタイミングだけはいつも一緒だった。七年間の同棲生活のうち、同時に風邪で寝込んだ回数は十回はくだらない。毎年二回は一緒に風邪を引いていた。病気の時だけは一つの布団で仲良く寝て、風邪が治ったら別々の布団で寝る。そんな二人だったが、それで何の問題もなかった。  ある時、お互いに質の悪い風邪を引いてしまい、完全に喉をやられてしまった私達は、声を満足に出すことができなくなった。長年一緒に暮らしているからといって、相手の考えていることが全て分かるわけでもなかったので、伝えたいことをメモ帳に書いて、筆談することにした。  全てを紙に書くのは面倒くさいので、必要最低限のことだけを書く。 「お腹空いた」 「パスタ食いたい」 「喫茶店行かない?」 「やだ」 「働きたくない」 「分かる」 「久しぶりにエッチさせて」 「ダメ」  短文で繰り返されるどうしようもないやり取り。声に出してしまうと下品にしか聞こえない会話なのに、筆談で行うだけで、ちょっと趣深いものに思えるからなんとも不思議だ。必死でメモ帳に文字を書いているお互いの様子は滑稽だったし、久しぶりに見た彼女の字が汚すぎて自然と笑みがこぼれた。同棲をはじめた頃、彼女の住民票の転出・転入手続きをする為に二人で行った区役所。記入用紙の氏名欄の枠をはみ出すアンバランスな大きさで書かれた彼女の汚い字を見て、腹を抱えて笑ったことを今でも思い出す。 「そんなに笑うことないでしょ!」 「どうして漢字三文字書くだけなのに氏名欄をはみ出すんだよ」 「ひどい! わざとじゃないもん!」 「しかし汚ねえ字だな~」 「子供の頃から字が汚いのがコンプレックスなんだからバカにしないで……」 「いいじゃん。お前は顔が可愛いんだから、文字ぐらい汚くていいんだよ」 「……何それ」 「俺は字が綺麗な女は好きじゃないよ。字なんて綺麗に書く必要ないし、俺が読めればそれでいいでしょ」 「……わけわかんない」 「わかんなくていいよ」  そう言って二人で笑った。大切な思い出だ。  筆談は簡単そうで難しい。文字だけで相手に気持ちを伝えるのは至難の技であるし、相手に分かりやすい言葉を選んだり、誤解させないような言い回しに気を付けるなどの他者への思いやりも必要となる。私と彼女は必要最低限の言葉だけで筆談ができる。余分な言葉などいらない関係であることを再認識できて嬉しかった。倦怠期で悩んでいる夫婦やカップルは筆談プレイをすることで、二人の関係を見直してみるのもいいのではないか。  私は他人の字を見るのがとにかく好きだ。特に汚い字は大好物である。習字コンクールなどでは、汚い字の作品だけを集めた展示会をしてもらいたいぐらいだ。綺麗な字は確かに美しい。鍛錬を積んだ賜物であるから素晴らしいと思う。だが、綺麗な字からは、ただ美しいということしか伝わってこなくて非常につまらない。汚い字からは、その人が歩んできた人生や性格がにじみ出るのだ。とめ、はね、はらいの全てに作者の魂が宿っている。とめ、はね、はらいの全てが下手糞だなんて素敵じゃないか。なかなかできることではない。字が汚いことは何も悪いことではない。個性だ。
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風俗でも筆談は有効なプレイになる
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死にたい夜にかぎって

もの悲しくもユーモア溢れる文体で実体験を綴る“野良の偉才”、己の辱を晒してついにデビュー!

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