第1回将棋電王戦の一日を振り返る【その4】 ボンクラーズ「勝ったな……」形勢判断1000オーバー
―[第1回将棋電王戦の一日を振り返る]―
←【その3】64手目△8三玉で流れ変わる
控え室では、ボンクラーズの思考中のデータがリアルタイムでモニタリングできるようになっていた。それを見ると、現在の形勢判断の数値は「84」と出ている。先手がほんのちょっとだけ有利と考えているようだが(※)、2桁なら事実上ほぼ互角を意味する。この数値が3桁になると将棋界で言うところの「優勢」に、4桁になるとほぼ逆転不可能な「勝勢」に相当する。2000を超えると投了級だ。
※後手が有利なら「-84」などとマイナスの数値で表示される。
そして会長が78手目△3四歩を着手した。これは自分の攻め駒である角の通り道を開ける手だ。素人目に見ても、攻めの意味を含んだ手に見える。それに反応して、ボンクラーズは▲6六歩打。ついにボンクラーズが攻め始めた。
「△3四歩あと、こう進むと角交換になる。それは後手がマズイので……。今までの中ではピンチかもしれない」(渡辺明竜王)
控え室やニコニコ本社ビルでは、プロ棋士たちが瞬く間に10手ほど先の局面のパターンをいくつも並べ始めた。後手のいい受け方や、うまい切り返しが見つからない。その間も指し手は進む。一手進むごとに、プロ棋士たちの発言が苦しい物に変わっていく。あっという間だった。モニターの数値は、すでに1000を超えていた。
「こうなったら気分は投了。さらにこうなったら気分でなく投了です(苦笑)」(渡辺明竜王)
「あんなにがんばってたのになあ……かつての木村義雄名人なら『あとは君でもわかるだろう』と言われそうな局面ですね。昔はビルみたいな大きさのコンピュータで、長い時間をかけてやっと、ちょっとした詰め将棋が解けるような感じだったんですけど、その時代からすれば、ものすごい進歩ですよね」(田中寅彦九段)
この間のプロ棋士たちの予想手順はすべて当たっていた。将棋界では、プロ棋士たちの検討が一致して当たりだすと、逆転の目もなく、終局が近いと言われている。おそらく会長も含めたすべてのプロ棋士、そしてボンクラーズも、先手勝ちと考えているのだ。会長の目の前でボンクラーズの代わりに先手の駒を操作している米長門下・中村太地五段の心境はいかばかりだろうか。
密集していた金銀が、ボンクラーズにみるみる剥がされていく。会長は自陣を放置して応戦するが、ボンクラーズの攻めは速く、わかりやすい形になってしまったため、ミスも期待できない。控え室の熱気は冷め、あとは投了を待つばかりという空気に。そして17時14分、113手で米長邦雄永世棋聖が投了。将棋ソフトがプロ棋士に勝った。人間とコンピュータにとって、歴史的な瞬間だ。
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米長会長「視聴者が『面白い将棋だったな』と思うことが一番の勝利」
取材・文/坂本寛
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