第1回将棋電王戦の一日を振り返る【その5】 米長会長「視聴者が『面白い将棋だったな』と思うことが一番の勝利」
―[第1回将棋電王戦の一日を振り返る]―
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終局後の記者会見で、米長会長は「序盤は完璧だった」とし、ボンクラーズが攻め始めた79手目の▲6六歩打あたりをポイントとして挙げ、その後に▲6五桂という手があるのを見落としたため、「万里の長城を築きながら、穴が開いて攻めこまれた」と述べた。
また、ボンクラーズ開発者の伊藤英紀氏は、喜びと緊張のあまりか、用意していたコメントをすべて忘れるというハプニングがあったが、ボンクラーズの元になった将棋ソフト「Bonanza」の保木邦仁氏や、さらにその基礎を作ったチェスの探索技術開発者たちへの感謝の言葉を述べた。
記者会見では、翌2013年の『第2回 将棋電王戦』が、プロ棋士5人と将棋ソフト5本が戦う団体戦になることも発表された。すでに対局者に決定している船江恒平四段は、今回の結果を受けて、ボンクラーズは我慢強いという評価もできるとし、「(若手である自分は)作戦云々より1年間でどれだけ強くなれるかの方が重要。力を出し切れるようがんばりたい」と初々しく抱負を述べた。
米長会長によれば、ボンクラーズの指し手は故・大山康晴十五世名人に似ているという。極めて合理的でねばり強く、勝つと言うより負けにくい、驚異的なまでの受け将棋を得意とした大名人だ。今回は自分も大山康晴になりきって指すような作戦だったが、途中から自分らしい攻めの手にうまく切り替えられなかった、とも。しかし筆者は、将棋の最善手の追求はもちろんだが、どんな相手なのか、何を指すのかを考える勝負師・米長邦雄らしい素晴らしい将棋だったとも考えている。
約40年ほども昔、まだコンピュータが相手にならないほど弱かった頃に、その大山康晴十五世名人は「人間が負けるに決まってるじゃないか」とコンピュータが将棋を指すことに反対したという。しかし、「名人」という称号が誕生して400年目に行われたこの対局は、谷川浩司九段が述べたように、人間にとっても、コンピュータにとっても、将棋にとっても、有意義だったことは間違いない。
「(ニコニコ生放送などで)この将棋を見ていた人たちが、『いい勝負だったな』『面白い将棋だったな』と思うことが一番の勝利だと思っている」(米長邦雄永世棋聖)
面白い将棋とは、どんなものなのか。人間とコンピュータの関係は、そして将棋はどう変わるのか。来年の『第2回 将棋電王戦』では、おぼろげながら見えてきたその答えが、よりハッキリと姿を表すのではないだろうか。
画像)日本将棋連盟モバイル(iPhone版)より
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取材・文/坂本寛
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