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“なんでもあり”で“なんでも”ができなかったレジーねえさん――フミ斎藤のプロレス読本#134[ガールズはガールズ編エピソード4]

 ひと晩ゆっくり眠って、明くる日、また日本武道館に来てみたけれど、気持ちを“なんでもあり”モードに持っていくことはもうできなくなっていた。  プロレスラーがプロレスではない闘いのなかに放り込まれたらどうしなくちゃいけないのかは、きのうの試合でだいたいわかった。バーリ・トゥードはそんなに楽しいもんじゃないこともわかってきた。  ロシアの柔道家、ロジーナ・イリーナは誇り高きフェアプレーのアスリートだった。スタンディングでの打撃戦でおたがいにおっかなびっくりの状態で手を出したり、足を出したりしてみたけれど、こっちが殴りかかっていかなかったら、向こうも殴ってこない。  そうだ、勝ったって負けたっていいんだ。いいファイトを心がけよう。気持ちよく闘おう……。そんなことを考えていたら、あっとうまに柔道のケサ固めで押さえ込まれた。  レジーねえさんは。遠い日のある午後の情景を思い出していた。  あの日、デパートのアクセサリー売り場から安物の指輪をかっぱらってきたのは3歳上の姉ロックウェルだった。バスルームのタオルの束の下からそこにあるはずのないものを発見したおふくろさんは、9人兄弟を全員、台所に整列させた。  “犯人”が名乗り出ない場合は、みんなが罰を受けるはめになる。そんなことしなくてもよかったのに、レジーねえさんは「わたしがやった」といって、ひとりで“百叩きの刑”に甘んじた。どちらかといえば、損な性格かもしれない。  アイ・ラブ・レスリングI love Wrestling,アイ・ラブ・マイ・ライフI love my life.もう闘う理由なんてなくなっていた。  ここで負けてしまったらハーレー・ダビッドソンは買えない。でも、そんなことはどうだってよかった。もし、勝てたとしても、次の試合では仲のいい堀田祐美子とぶん殴りっこをしなければならない。  “なんでもあり”は、いざとなったらどんなことでもできちゃうファイターのための闘い。レジーねえさんは、そのなんでもができないウーマン。やっぱり、プロレスがいいや、なのである。 ※文中敬称略 ※この連載は月~金で毎日更新されます 文/斎藤文彦
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