“なんでもあり”で“なんでも”ができなかったレジーねえさん――フミ斎藤のプロレス読本#134[ガールズはガールズ編エピソード4]
―[フミ斎藤のプロレス読本]―
199×年
バーリ・トゥードは、なんでもありの闘いである。ルールがないものは、とりあえずスポーツとは呼べない。
全日本女子プロレスがプロデュースした“U★TOPトーナメント”は、限りなくケンカに近いシチュエーションを設定した他流試合の勝ち抜き戦だった。
レジー・ベネットは純粋にプロレスが好きな純粋なプロレスラーだ。アメリカで流行っている“アルティメット”みたいなことをやってみようと思ったのは「ま、いいか」というわりと軽い気持ちからだった。
相手の女性の顔をゲンコツでぶん殴らなければならないかもしれないし、そうじゃなかったら、こっちがボコボコにされるかもしれない。
レジーねえさんは、子どものころ洪水で実家が流されて死にはぐったことがある。あのときの恐怖にくらべたら、たいていのことは笑ってすませておける。
オランダの女子キックボクサー、イルマ・ネーホフはとんだダーティー・ファイターだった。“格闘技ゴロ”の悪名をはせるジェラルド・ゴルドーがどこぞから連れてきた前歴不詳の格闘家だけあって、瞳の奥のほうになにか得体のしれない冷たいものが潜んでいるのがすぐにわかった。
レジーねえさんがマウント・ポジションをとると、ネーホフは下から胸のあたりの肉に噛みついてきたり、親指の先を目に突っ込んできたりした。
「ふーん、こういう感じなのか」レジーねえさんは、妙に冷静になって下になっているビッチの顔をのぞき込んだ。コーナーでは、スーパータイガージムの中井祐樹と朝日昇が「耳の後ろを殴れ!」と叫んでいた。
とにかく、このポジションを崩してはいけない。ちょっと油断すると、すぐに目つぶしを食らう。相手がイヤなやつだったら顔をぶん殴るのはかんたんである。
フィニッシュとなったV1アームロックは、なんとなくまぐれでキマッた関節技だった。もうどうにでもなれと思ってグイグイ絞めあげたら、ゴングが鳴ったのが聞こえた。
体からいっきに緊張が抜けていった。レジーねえさんの夏はここで終わった。
1
2
※斎藤文彦さんへの質問メールは、こちら(https://nikkan-spa.jp/inquiry)に! 件名に「フミ斎藤のプロレス読本」と書いたうえで、お送りください。
この連載の前回記事
この記者は、他にもこんな記事を書いています
ハッシュタグ