更新日:2022年11月20日 10:05
エンタメ

「女装したい人たちを幸せにしたい」世界初ジェンダーフリー歌劇団の誕生秘話――女装小説家・仙田学

「お母さんを守りたい、助けたい」

 翌朝、くりこさんは、貯めていたお小遣いを母親に内緒で弟に渡した。それ以降、たびたび家にくる集金人にくりこさんは小遣いを渡すようになった。 「学校では、特殊学級のコたちと仲がよかったですね。重い荷物を持ってあげたり、できないことがあって困っていたりすると手伝ったり。それで告白されたことも何度かありました。相手が障がいを持っているからとかではないですよ。ただ、困っていたから、大変そうだから、手伝った。当たり前のことをしていただけなんです」
女装子歌劇団08

筆者

 次第に、くりこさんは疑問を抱くようになった。 「どうしてまわりの皆は、お互いに助けあわないんだろう?」  お母さんを守りたい、助けたいという願いは、いつしか「困っている人、弱い人を守りたい」という思いに変わっていった。  新宿の女装サロンバー「女の子クラブ」のママになったのも、そんな思いからだったのかもしれない。  女装を楽しみたい、女装している人と繋がりたいと思いながらもその場所を持てずに困っている男性に、気兼ねなく女装を楽しめる場所を提供する仕事だ。

カミングアウトをするため女装を仕事に

 だが、女装していることも、女装サロンバーのママをしていることも、母親にはなかなか打ち明けられなかった。 「女装を仕事にして、成功してから言おうって、決めていたんです。まわりを助けている、守っている、っていう実績が必要だって」  おそらく、くりこさんにとってカミングアウトは、個人の自由を勝ち取る行為ではない。  それよりも大事なのは、女装を仕事にして成功していると、お母さんに認められること。そうなってようやく、困っている人、弱い人を守っていると胸を張って言える……。  くりこさんは、お母さんになろうとしているのかもしれない。僕にはそう思える。

女装子歌劇団には多種多様なメンバーが在籍する。写真は女装子界の有名人・ビキニさん

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