ニュース

ミシュランで星を獲得したタイの大衆食堂が「星を返上したい」と漏らした理由

ミシュランガイドの星を返上する!?

 再来店したのは火曜日の午後8時。15分前に入店し注文を告げたが、テーブルに料理が届いたのは1時間後である。オーダーしたのはカニの身入りカイジアオ、ラートナー タレー(海鮮あんかけ麺)、ガパオヌア(牛肉のガパオライス)。ガパオヌア250バーツ、ラートナータレー400バーツ、カイジアオは1000バーツと、他食堂に比べ1ケタ違う。それだけに使っている食材は素晴らしい。カイジアオの具材であるカニの身は、卵焼きとは思えないほど惜しみなく使われ、ラートナーもしかり、新鮮な食材にこだわりを見せている。
タイ食堂

手前が海鮮ラートナー。左奥が牛肉のガパオライスで、右奥がカニの身入りカイジアオ

タイ食堂

カイジアオにはカニの身がふんだんに使われている

「私とジェイファイの両親は中国から渡ってきた華僑なんです」  忙しいジェイファイさんに代わって話を聞かせてくれたのは、共に店を営んでいる妹さんだ。中国から渡ってきたご両親は旧市街地で小さなクイッティアオ(タイラーメン)屋をオープン。店は小さくとも料理人としての矜持を持つご両親は、開店当初から他クイッティアオ屋よりも2倍ほど高い価格設定で提供していたという。ジェイファイさんはその意思を継ぎ、いまの価格設定になっているようだ。  ここまで価格を上げれば離れていった客もいるに違いない。それでもブレずに営んでいけるのは、彼女が持つ料理人としての強いプライドと自信に他ならないだろう。
タイ食堂

休むことなく調理を続ける店主ジェイファイさん

 ミシュランガイドの発表から日に日に予約が増え続けている「Jay Fai」。同店を記事にしたタイ語のニュースがネットで流れたのは、取材から1週間ほど経ったころだった。報じたのはMGR ONLINEというニュースサイトである。 「ミシュランの星を取って私は疲れた。以前の店に戻りたい」  記事に冠せられたタイトルだ。そのなかで彼女は「ミシュランの星を返上したい」と漏らしている。  ミシュラン獲得後、「Jey Fai」へ押し寄せる客は増える一方でメディアからの取材はひっきりなし。来店した者は著名人を見るように、調理している彼女にカメラを向け写真や動画を撮影する。    ミシュラン獲得後、ジェイファイさんの環境は激変した。ミシュランガイドの星獲得は飲食店店主の多くが羨む勲章だ。しかしジェイファイさんは、星獲得から2週間ほどで「返上したい」という意思を漏らしている。激変した環境が彼女の精神を疲弊させているのだろう。執筆時点では「星返上」が決まったわけではないが、もし返上となると極めて数少ない事例の一つになる。  一晩にして超有名店になったタイ食堂「Jay Fai」、ミシュランガイドの星を返上するのだろうか。<取材・文/西尾康晴>
2011年よりタイ・バンコク在住。バンコク発の月刊誌『Gダイアリー』元編集長。現在はバンコクで旅行会社TRIPULLや、タイ料理店グルメ情報サイト『激旨!タイ食堂』を運営しながら執筆活動も行っている。Twitter:@nishioyasuharu
1
2
テキスト アフェリエイト
新Cxenseレコメンドウィジェット
おすすめ記事
おすすめ記事
Cxense媒体横断誘導枠
余白
Pianoアノニマスアンケート