バンコク郊外の空き地に廃棄された謎の大型旅客機! 占拠するホームレス一家の正体とは…
陽に焼けているのかもともとなのか、褐色の肌をした女は私に向かってこう言い放った。
「敷地内に入りたかったら200バーツ支払え」
敷地とはラムカムヘン通りという幹線道路沿いにある広場で、女はここに住んでいる住人。つまりはホームレスである。道路に面した側には木製の柵がびっしりと立てられ、唯一の入り口には施錠がされているため、女の許可なしで侵入するのはほぼ不可能である。
名もない広場に住みついているホームレスに200バーツも支払うのは癪だけれど、支払わなければ敷地内には入れない。そこまでして敷地内に踏み入れたかった理由は、広場に廃棄された飛行機の機体を撮影するためだった。
ラムカムヘン通りとはバンコクの中心部から北東へ伸び、東端はミンブリー地区まで走っている幹線道路である。日本人居住エリアからかなり離れているため在住日本人には馴染みの薄い通りだが、大型ショッピングセンターや大学、スタジアム、水上マーケットなどがあり、交通量は多く、渋滞することも珍しくはない。
私がホームレスの女に200バーツを請求された広場は、ラムカムヘン大学からさらに東へ進んだラムカムヘン・ソイ105付近に広がっている。雑草は伸び、手入れされている様子もなく、人が侵入できないよう柵が設けられているため、殺風景な広場だ。
そんな名もなき広場に飛行機の機体が無造作に放置され、雨ざらしになっているのだ。
私は4年ほど前に一度この広場に訪れたことがある。その頃から飛行機の機体は放置され、広場の片隅に住み着いていたホームレスはいたが、当時、柵は設けられておらず自由に入って撮影も可能だった。
ところが今はホームレスが広場への出入りを管理し、入場料までせしめている。このホームレスはどこから来たのか。そもそも、広場に放置されている機体はなんなのか。
青空が広がる好天のもと、ホームレスの家族以外は誰もいない広場で、機体をさまざまな角度から撮影する。4年前になかった機体の落書きは、ホームレスが描いたものなのか。
ひと通り機体の撮影を終えた私は、褐色の女性に話しかけてみた。
「ここの広場にはオーナーがいるんでしょ?」
敷地内に簡易キッチンや機体を改造して棚や寝床まで作り、しかも柵まで設けて外部からの侵入を完全にシャットアウト。敷地のオーナーからの許可を得ていなければ、これだけ揃えるのは不可能なはずだ。
私の質問はそのオーナーが誰かを知るためのものだったが、女の口は重く、ほんの少し首を傾けただけで、私の返答にはっきりと答えようとはしなかった。
ここに住んでいるのは女だけではなく、3歳から小学校低学年ぐらいと思われる子供が4人、その他に若い男が2人いた。若い男は雑草を抜くなどの金にならぬ雑務に従事していたが、オーナーから命じられた業務なのかもしれない。
柵の近くに木造の小さな小屋が建てられている。
ここではプロパンガスによる調理が可能で、子供たちは熱したフライパンに生卵を落とし、調理しながら笑顔を見せた。
「この子たち、カイダーオ(卵焼き)が作れるのよ」
女は笑いながらそう話す。きっと女の子供なのだろう。小屋の後ろへまわると鶏が10匹ほど飼育されていたのだが、その他に胴体だけぶった切られた機体を2つ並べ、1つを物置に、1つは扉が閉められていたため内部を確認できなかったが、寝床として利用していると思われる。
数年前から放置されている機体の数々
広場に居住スペースを確保しているホームレス一家
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2011年よりタイ・バンコク在住。バンコク発の月刊誌『Gダイアリー』元編集長。現在はバンコクで旅行会社TRIPULLや、タイ料理店グルメ情報サイト『激旨!タイ食堂』を運営しながら執筆活動も行っている。Twitter:@nishioyasuharu
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