更新日:2022年11月25日 23:05
エンタメ

日本人のへヴィメタル蔑視を解消させた“歌謡メタル”が激動の1989年に残した爪あと

1989年を“オタク受難の時代”にした「あの事件」

 その反面、オタク向けアニメの方はパッとしない時期だった。オリジナル作品は『天空戦記シュラト』『魔動王グランゾート』など。劇場用アニメで目立った作品は、『機動警察パトレイバー the Movie』『魔女の宅急便』のほか、『ヴイナス戦記』『ファイブスター物語』『MEGAZONE23 III』などがあげられるが、どことなく「黒歴史」扱いな空気漂う作品が少なくない。1983年に勃興したOVA(オリジナル・ビデオ・アニメ)シーンも、クオリティの低下、作品の小粒化などが見られ、オタク熱を燃やしにくい状況となっていた。この頃のオタク向けアニメは、明らかに冬の時代だった。  団塊ジュニア世代が10代後半になったことで、アニメからその世代の視聴者が離れていき、アニメ産業は下の世代の開拓を進めていたこともある。低年齢層をターゲットにした『機動戦士ガンダムZZ』(1986年)や、「SDキャラクター」を用いた『SDガンダム』などがその象徴と言えよう。  さらにこの年の夏、前年から発生していた「東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件」の犯人が逮捕された。宮崎勤元死刑囚である。マスコミは、激しい報道合戦の中で、犯人の異常性と彼のアニメ・ビデオ趣味を結びつけた報道を行なった。それは「おたくバッシング」へと向かい、さらにおたくを変質者や犯罪者予備軍とみなす「おたく差別」へと発展していった。  そんな社会風土だったからか、筆者の友人らの多くは、音楽とマンガはたしなみ、アニメは観ていないというスタンスを取っていた。80年代後半の時期、アニメを卒業した視聴者の多くが、マンガと音楽へ向かったのだと思われる。  オタクとメタルを兼ねていた筆者は当時、ユーザーは「音楽とマンガは一般人向け、アニメは子どもとオタク向け」と仕分けているように感じていた。マンガとアニメは近しいようで、実は近くなかったということだろう。
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80年代後半のバンド・ブームの頂点「イカ天」
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(やまの・しゃりん)漫画家・ジャパメタ評論家。1971年生まれ。『マンガ嫌韓流』(晋遊舎)シリーズが累計100万部突破。ヘビメタマニアとしても有名。最新刊は『ジャパメタの逆襲』(扶桑社新書)

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本連載『ジャパメタの逆襲』が書籍化! 来春発売予定!

 さて、今回が今年最後の連載となる。9月から始まった本連載も何とか18回を数えることができた。おかげさまでご好評をいただいているようで、読者のみなさまにはたいへん感謝しています。

 来年は2月から開始予定です。この後、「アニメとアイドル臭漂うJAPプログレの世界」「BABYMETAL論」「X JAPANとV系」「ゼロ年代のヘビメタをネタとした作品」「ジャパメタのオムニバスアルバム」「ジャパニーズ・メタルのアルバム10選」ほかいくつかの題材を掲載しようと思っています。

 さらに、本連載『ジャパメタの逆襲』が来春、扶桑社新書から出版予定となりました。詳細は決まり次第、またご報告しますので、ぜひ、ご期待ください。

 それでは、みなさま、よいお年をお迎えください。来年もよろしくお願い申し上げます。


ジャパメタの逆襲

LOUDNESS、X JAPAN、BABYMETAL、アニメソング……今や世界が熱狂するジャパニーズメタル! !  だが、実はジャパニーズメタルは、長らく洋楽よりも「劣る」ものと見られていた。 本書は、メディアでは語られてこなかった暗黒の時代を振り返る、初のジャパメタ文化論である。★ジャパメタのレジェンド=影山ヒロノブ氏(アニソンシンガー)の特別インタビューを掲載!

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