更新日:2022年11月25日 23:05
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日本人のへヴィメタル蔑視を解消させた“歌謡メタル”が激動の1989年に残した爪あと

<文/山野車輪 連載第18回>

海外で高評価のジャパメタ、その魅力は“歌謡メタル”にあり

 マンガやアニメなどのオタクカルチャーは近年、海外から高い評価を受けている。そして日本のヘヴィメタルも、海外から高い評価を受けていることがわかった。海外で評価されているX JAPAN、JAM Project、DIR EN GREY、BABYMETALなどのバンドおよびグループは、いずれも相当に“日本らしさ”を内包している。X JAPANは「歌謡スピードメタル」、JAM Projectは「アニソンメタル」、DIR EN GREY は「V系」、そしてBABYMETALは「ラウド系アイドル」と、これらのバンドおよびグループの個性・属性は、どれも日本でしかあり得ないものだ。  今回は、そのうちのひとつ“歌謡メタル”について述べたい。“歌謡メタル”は、“洋高邦低”意識を持つ“レイシスト”メタラーから不当に蔑視されてきた。だが、本来ならばもっと高い評価を与えなければならない。なぜなら、“歌謡メタル”は1989年、日本の音楽シーンで大活躍し、確かな実績を出した。そして何より、日本人のヘヴィメタル蔑視の解消に大きく貢献したのだから。

1989年に登場した、歴史に残る4枚の“歌謡メタル”アルバム。X『BLUE BLOOD』、SHOW-YA『Outerlimits』、浜田麻里『Return to Myself』、聖飢魔II『WORST』(筆者撮影)

昭和天皇崩御、ベルリンの壁崩壊……、激動の時代だった1989年

 1989年は、日本と世界の双方が激変した年でもあった。1月に昭和天皇が崩御し、時代は平成へと移った。6月に天安門事件が起こり、11月にベルリンの壁が崩壊、12月の米ソの首脳会談「マルタ会談」をもって東西冷戦が終結した年でもある。  マンガ界でも1989年は、2月に、“マンガの神様”手塚治虫が死去し、一つの時代が終わりを告げた。手塚マンガの中古市場価格は、軒並み上がった。  一方で、この年のマンガ界隈はかなり熱かった。『伝染るんです。』(吉田戦車著)と『サルでも描けるまんが教室』(相原コージ、竹熊健太郎著)が『週刊ビッグコミックスピリッツ』(小学館)にて連載開始され、同青年誌は快進撃を始めた。  『週刊少年ジャンプ』(集英社)で連載されていた大人気マンガ『ドラゴンボール』(鳥山明著)は、「サイヤ人編」から「フリーザ編」へ突入した頃で、多くの人々がマンガを読み込んでいた時代だった。テレビアニメでも、『ドラゴンボールZ』『YAWARA!』『チンプイ』『らんま1/2』など、原作ものが大ヒットした。  ちなみに、連載第10回で取り上げたヘヴィメタルの始祖バンドLAZYのヴォーカリストで“アニソン界のプリンス”影山ヒロノブが、『ドラゴンボールZ』の主題歌「CHA-LA HEAD-CHA-LA」のシングルをリリースしたのも1989年である。
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1989年を“オタク受難の時代”にした「あの事件」
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(やまの・しゃりん)漫画家・ジャパメタ評論家。1971年生まれ。『マンガ嫌韓流』(晋遊舎)シリーズが累計100万部突破。ヘビメタマニアとしても有名。最新刊は『ジャパメタの逆襲』(扶桑社新書)

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本連載『ジャパメタの逆襲』が書籍化! 来春発売予定!

 さて、今回が今年最後の連載となる。9月から始まった本連載も何とか18回を数えることができた。おかげさまでご好評をいただいているようで、読者のみなさまにはたいへん感謝しています。

 来年は2月から開始予定です。この後、「アニメとアイドル臭漂うJAPプログレの世界」「BABYMETAL論」「X JAPANとV系」「ゼロ年代のヘビメタをネタとした作品」「ジャパメタのオムニバスアルバム」「ジャパニーズ・メタルのアルバム10選」ほかいくつかの題材を掲載しようと思っています。

 さらに、本連載『ジャパメタの逆襲』が来春、扶桑社新書から出版予定となりました。詳細は決まり次第、またご報告しますので、ぜひ、ご期待ください。

 それでは、みなさま、よいお年をお迎えください。来年もよろしくお願い申し上げます。


ジャパメタの逆襲

LOUDNESS、X JAPAN、BABYMETAL、アニメソング……今や世界が熱狂するジャパニーズメタル! !  だが、実はジャパニーズメタルは、長らく洋楽よりも「劣る」ものと見られていた。 本書は、メディアでは語られてこなかった暗黒の時代を振り返る、初のジャパメタ文化論である。★ジャパメタのレジェンド=影山ヒロノブ氏(アニソンシンガー)の特別インタビューを掲載!

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