更新日:2022年11月25日 23:05
エンタメ

日本人のへヴィメタル蔑視を解消させた“歌謡メタル”が激動の1989年に残した爪あと

“歌謡メタル”こそが日本人のヘヴィメタル蔑視解消に貢献した

 当時はまだ、一般世論はヘヴィメタルを「ヘビメタ」と称して、バカにしていた。だが“歌謡メタル”が歌謡曲界で活躍することによって、大衆の支持を獲得することに成功した。そしてアルバムやシングルの売り上げもかつてないほどの数字を叩き出し、大きな実績を見せつけた。  洋楽メタラーは“歌謡メタル”を徹底的に嫌悪したが、奇しくも彼らが嫌う“歌謡メタル”こそが、一般人のヘヴィメタルに対する偏見・蔑視を克服し、ヘヴィメタルという音楽ジャンルの評価を向上させたのである。  だがこの事実と実績は、一般リスナーのみならず、メタラーにも理解されていない。バンド・ブーム、アイドル全盛の1989年に、“歌謡メタル”勢は数多のアーティストのなかのわずか一ジャンルに過ぎなかったのである。  日本と世界両方が激変しており、消費すべきコンテンツも多かったこの時期、「芸能界で活躍する“歌謡メタル”」なんて、あまりにも些細なことだった。“歌謡メタル”勢がこの年に叩き出した実績はスルーされ、時代のなかに飲み込まれ、忘れ去られた。いや、そもそも当時は、彼ら彼女らは、個々で活躍しており、“歌謡メタル”というジャンルの認識自体、一般層の間では存在しなかった。  筆者もこの時期、浜田麻里とSHOW-YAの過去のアルバムを一通り押さえ終わり、メジャー・シーンで活躍するジャパメタ・アーティストから離れ、インディーズ・メタルのほうに傾倒していたので、「芸能界で活躍する1989年の“歌謡メタル”」という認識は持ち得なかった。

筆者が当時聴いていたアルバム。FORTBRRAGG『FORTBRRAGG』、Gargoyle 『禊』、GASTUNK『MOTHER』、X『VANISHING VISION』、SALAMANDER『誕生』、TerraRosa 『Honesty』(筆者撮影)

 だが、1989年に芸能界で活躍した“歌謡メタル”のアーティストたちは、活動休止やメタル外での活動など紆余曲折の経緯を辿りつつも、約30年後の現在、メタル・アーティストとして、現役で活躍している。また00年代以降、歌謡曲のようにメロディが豊かなメロディックスピードメタル(メロスピ)の音楽性を持つバンドも増えてきた。“歌謡メタル”フォーエバー!
(やまの・しゃりん)漫画家・ジャパメタ評論家。1971年生まれ。『マンガ嫌韓流』(晋遊舎)シリーズが累計100万部突破。ヘビメタマニアとしても有名。最新刊は『ジャパメタの逆襲』(扶桑社新書)
1
2
3
4
本連載『ジャパメタの逆襲』が書籍化! 来春発売予定!

 さて、今回が今年最後の連載となる。9月から始まった本連載も何とか18回を数えることができた。おかげさまでご好評をいただいているようで、読者のみなさまにはたいへん感謝しています。

 来年は2月から開始予定です。この後、「アニメとアイドル臭漂うJAPプログレの世界」「BABYMETAL論」「X JAPANとV系」「ゼロ年代のヘビメタをネタとした作品」「ジャパメタのオムニバスアルバム」「ジャパニーズ・メタルのアルバム10選」ほかいくつかの題材を掲載しようと思っています。

 さらに、本連載『ジャパメタの逆襲』が来春、扶桑社新書から出版予定となりました。詳細は決まり次第、またご報告しますので、ぜひ、ご期待ください。

 それでは、みなさま、よいお年をお迎えください。来年もよろしくお願い申し上げます。


ジャパメタの逆襲

LOUDNESS、X JAPAN、BABYMETAL、アニメソング……今や世界が熱狂するジャパニーズメタル! !  だが、実はジャパニーズメタルは、長らく洋楽よりも「劣る」ものと見られていた。 本書は、メディアでは語られてこなかった暗黒の時代を振り返る、初のジャパメタ文化論である。★ジャパメタのレジェンド=影山ヒロノブ氏(アニソンシンガー)の特別インタビューを掲載!

おすすめ記事