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爪切男×こだま「互いの人生が入れ替わっても大丈夫」 同人サークル出身の作家二人はこれからも書き続ける

爪切男

お互いの作品への思い

――爪さんは、こだまさんを前から知る立場として、二作目『ここは、おしまいの地』をどういう思いで読みましたか? 爪切男:『夫のちんぽ~』で苦しい思いもしたと思うんですけど、それを乗り越えて自信がついたというか、のびのび楽しそうに書いてるなと思いました。覚悟というとかっこよすぎるけど、最近は堂々と書いてる気がする。 こだま:確かにそうかも。『夫のちんぽ~』が出たての頃は、評価を気にしてけっこうノイローゼ気味だったので。 爪切男:そういうときに俺が相談に乗ったり優しくしたりしないから、この前「私にもっと優しくしろ」って怒られたんですよ。 こだま:そんな言い方はしてないです(笑)。「私にDMしてくるときは、お金の相談ばっかりですね」って。同人誌の印刷や製本を、前払いで私が立て替えたりしていたので。 爪切男:「文学フリマに買いにきてくださった女性のお客さんへの対応と、私への対応が、同じ女性でこうも違うのか」って言われて。 こだま:そう、爪さんって、4人で話してるときとは違って、女性のお客さんが加わるとめちゃくちゃ饒舌になるんです。 爪切男:おい、言い方を考えろ(笑)。 こだま:ああ、爪さんって女の人の前ではこうなるんだと思って、おもしろかった。 爪切男:だったら俺も言わせてもらいますけど、こだまさん、出版記念イベントや「Yahoo!検索大賞2017」の授賞式のときに、私は行きませんと言っておきながら、いつも「実は会場にいました」って後から言うんですよ。 こだま:違うんです。それは扶桑社の担当編集の高石さんの助言で。行くと予告してしまうと、悪意ある人が写真を撮って晒したりして、身バレのリスクが高まるから、事が終わるまでは東京に行くこと自体書かないようにしましょうって。 爪切男:それなら、後になって「高橋一生さんを見ました」とか書かなければいいのに。「実はいました」っていうのが多い。 こだま:それは……感想を言いたくて(笑)。でも、そう思われるのは恥ずかしいから、もう二度とやりません。 爪切男:ごめん、悪かった、悪かったよ(笑)。そんな風に思ってないから。 ――こだまさんは、爪さんの初書籍『死にたい夜にかぎって』を読んでどうでしたか? こだま:詳しく書けば10冊分になるくらいのエピソードが、惜しげもなく次から次へと詰め込まれていて、なんだこれ、なんだこれと思いながら、ずっと読んでいられる本でした。 爪切男:それは、この本のもととなった『日刊SPA!』の連載『タクシー×ハンター』のときから意識していたことで。自分でも3回くらいに分けられるな、と思ったエピソードでも、毎週これで最終回だというつもりでやっていたから、書きたいことを1回に詰め込んで書いてやろうと思ったんです。 こだま:でも、ブログや同人誌の頃より、一つひとつのエピソードは丁寧に書かれていて。特にお父さんに対する気持ちは、これまであまり深く描かれていなかったから、新鮮でした。 爪切男:関わってきた女性の話だけじゃなくて、もう一本軸があったほうがいいと担当の高石さんが助言してくれて。まだ母親と再会する前の時代の話なので、父親の話を掘り下げることにしました。 こだま:それによって、男女分け隔てなく愛情の深い人なんだと伝わってきましたよ。ただ、ネットでは「泣きました」という感想もあったけど、私は、爪さんが何をこんなに真面目に「愛してる」とか語ってるんだろうと思ったら、泣けるというよりもおもしろい話として読んでしまいました。 爪切男:Twitterで、「おまえは鼻を赤くして何言ってんだよ」と書かれましたからね。 こだま:批判してるわけじゃないんです(笑)。本当に愛にあふれていて、「アスカのことを愛している」と恥ずかしげもなくストレートに書いているのがすごいなと思って。いや、皮肉じゃなくて(笑)。 爪切男:エンジンかかってきましたね(笑)。でも、「泣いた」と言ってくださる方が多いのも嬉しいんですけど、そんなに美しくない恋物語なので、ところどころで笑ってもらえたほうが安心します。 こだま:今は別の方と結婚しているアスカさんに、こんなに愛してる愛してるって書いて、ご本人も、嬉しいというより「何言ってんだ」ってツッコミながら読んでくれると思いますよ。 爪切男:変な話、付き合っていた当時や、別れたときよりもアスカのことは考えましたね。「あのとき、本当はどう思っていたんだろう」とか。この本を書いたことで、当時よりもアスカのことを考えて、さらに愛が深まったかもしれません。当時は本当にこの子は明日にでも死ぬんじゃないかなって、笑えないときもありましたし。そういうことを書いても読む人がしんどいだろうなと思ったので、詳しくは書きませんでしたけど。
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互いの人生が入れ替わっても大丈夫
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死にたい夜にかぎって

もの悲しくもユーモア溢れる文体で実体験を綴る“野良の偉才”、己の辱を晒してついにデビュー!

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