ダークサイドのペンギン村のような世界で
――自分の書くものや人生が肯定される機会が増えてきて、お互いに何か心境の変化はありましたか?
爪切男:さっきも言いましたけど、こだまさんは前よりも胸を張って書いてるなって気がします。もともと俺たちは、こだまさんに対して「自分の人生、もっと誇っていいのに」と思っていたから、最近ようやくちょっとは誇ってくれるようになったのかなって。
こだま:自分の中では、夫や家族に隠れて書いているという罪の意識があるから、あんまり誇れないんですけどね。
爪切男:罪なんてないと思うけどなあ、俺は。隠れて書いたっていいと思うし。
こだま:優しいですね。
爪切男:優しくしろって言われたから。他の女性と同じように扱えって(笑)。
こだま:それ、絶対言ってないから。「お金のDMしかこない」って言っただけ。でも、それを言ってから、「一緒にがんばりましょうね」みたいないたわりのメールが急に爪さんからくるようになりました。
爪切男:言い訳じゃないですけど、みんなで寄ってたかって心配したら、逆にプレッシャーをかけてしまうかなと思って、控えていたんですよ。でも、一人でノイローゼになっているのを見て、「やっぱり女の子なんだな」と心を入れ替えました。僕は、女性の言うことは全肯定しますから。
――お互いに、今後はこういう作品を読んでみたい、といった期待はありますか?
爪切男:前から言ってるんですけど、こだまさんにはそろそろ小説を書いてほしいです。
こだま:予定はあります。
爪切男:あ、本当に? それは嬉しいですね。今のままだと、実体験を書いたから話題になっただけの人って見られてしまいかねないけど、こだまさんはとてもきれいな日本語を書くし、表現力もすごい人だから、フィクションでもこれだけ書けるんだぞっていうのを見せてほしいです。
こだま:私は、『死にたい夜にかぎって』が広まり、爪切男という唯一無二の書き手を多くの人に知ってもらいたい。そして、次の作品につながればいいなとすごく思います。念願だった文章で身を立てる世界に、本当に入ったんだなと思うと感慨深いです。
爪切男:こだまさんには本当に感謝してます。こうして本を出すタイミングも一緒だし、ブログをまとめた同人誌を出したときも一緒だったし、こだまさんは常に自分の一歩先を進んで、道を切り開いてくれている感じがします。そういうところでも、女性に頼りっきりの人生からは逃れられないんだなと思いますね。
こだま:普段、こういうことは言い合わないので、照れますね。
爪切男:それを言ったら、乗代くんにも感謝してるし、たかさんにも感謝してますよ。同じように四国から東京に出てきた同年代のたかさんが、深夜のコンビニバイトをしながら、面白い漫画をずっと描き続けてくれているというのは、ものすごく心の支えになってますから。僕も頑張って文章を書こうと思えます。「A4しんちゃん」のみんなには感謝しかないですね。でも、すべてはこだまさんが「誰かいませんか?」って勇気を出したところから始まってるわけで、あれがなかったら『なし水』も生まれなかった。
こだま:私も、あのとき2人が怒ってくれなかったら『夫のちんぽ~』は生まれなかった。持ちつ持たれつじゃないですけど、お互いがきっかけを作りあって、こうして本を出せたところがあります。
爪切男:月並みですけど、本当にめぐりあいですよ。お互い苦しくてもなんとか生きてきたからこそ、絡まりあった縁だと思うので。
――お2人とも、自分と関わってきた人たちのことを、決して悪く書かないですよね。
爪切男:俺もそうだし、こだまさんの本に出てくる人も、愛すべき人たちばっかりですよね。俺は、昔からずっと『Dr.スランプ アラレちゃん』のペンギン村みたいな世界に住みたいと思ってるんですけど、こだまさんの本は、ダークサイドのペンギン村を描いてくれている気がして、すごくよかった。こんなペンギン村でも俺は住みたいなって。
こだま:私から見ると、そっちもペンギン村ですよ。アスカさんと、今の結婚相手と、そこに爪さんも混じって交流が続いているというのは、ペンギン村のような不思議で平和な世界だなと。
爪切男:いろいろ苦しいことはあるけど、俺もこだまさんも結局、人間のことが好きなんですよ。だから、俺ももっとこだまさんのことを好きになろうと思います。
こだま:いや、いいです(笑)。
2月17日、出版記念イベントを開催した阿佐ヶ谷ロフトAにて
取材・文=福田フクスケ 撮影=大橋祐希
こだま
主婦。2018年、デビュー作『
夫のちんぽが入らない』の実写映像化、マンガ化の展開予定。『Quick Japan』『週刊SPA!』で連載中
爪切男(つめ・きりお)
’79年生まれ。派遣社員。『日刊SPA!』での連載「タクシー×ハンター」を大幅に加筆修正を加え、満を持して『
死にたい夜にかぎって』でデビュー