更新日:2022年12月17日 22:46
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香山リカの裁判傍聴シリーズ――植村隆さんの裁判を見てきた

 さて、午後はまず植村氏への反対尋問だ。被告側の5人の弁護士が次々に質問を続けたのだが、いくらかでも実があったのは、先ほどの記事のリードの「連行」という表現と朝日新聞が訂正して謝罪を行う原因となった吉田清治氏証言の「強制連行」との異同を問いただす質問と、同じく記事の「女子挺身隊」が戦時中、日本にも韓国にもあった「勤労挺身隊」との混同を招くものであったことを問う質問くらいであった。植村氏はそれに対して、記事のリードの「連行」は単に連れ去る手段のことを言っているわけではないと、また「女子挺身隊」については、取材をした韓国で実際に慰安婦のことをそう表現していたので記したと答えていた。  それでも被告側の弁護士は「日本の勤労女子挺身隊に申し訳ないと思わないのか」「その単語を使ったことを反省していいないのか」と繰り返し、裁判長に「その手の質問はもうよろしいんじゃないでしょうか」と制止される一幕もあった。さらに、「私は朝日新聞の読者でしたが、この記事を読んで吉田清治が証言していた話の実物がついに現れたんだ、衝撃を受けました」と植村氏の記事とすでに否定されている吉田証言とを結びつけようとする弁護士もいたが、これも裁判長から「個人の思いはちょっと……」と制止された。  質問が集中したのは、植村氏が記事の前文で「挺身隊」「連行」という用語を使ったこと、また、本文でキーセン学校の経歴を書かなかったことについてだった。このほかに、記事執筆の開始・終了時間や、慰安婦関連書籍の読書歴、関連記事のスクラップの仕方など、争点とは直接関連のない質問も繰り返された。  さて、ここで14時45分。いよいよ櫻井氏への尋問だ。  主尋問では、今回の提訴の対象となった2014年の論文や記事などが書かれた経緯が述べられた。櫻井氏は多くの学者、政治家、大使経験者などに取材をしたと話し、当時はこれまで同業者への否定的評価は遠慮していた読売新聞までが朝日新聞の慰安婦報道が偏っているものだったことを社説で厳しく追求したと述べた。朝日新聞や記者を批判したのは私だけではない、と言いたかったのだろうか。  そして次に、私が個人的にこの裁判で最も印象的だったコメントを、櫻井氏は質問に答える形でではなくて、自ら語り出したのだ。 「(この論文を書いた)2013年から14年にかけては、(第二次)安倍政権に河野談話を見直す動きが出てきていました。日本に着せられた濡れ衣を晴らすためにです」  なぜ櫻井氏はここであえて「安倍政権」の話をしたのだろう。自分が植村氏を「捏造」と決めつけた論文を書いた時代背景を説明したかっただけなのかもしれないが、誰も問わないのにわざわざ「安倍政権」の名前を出したことが、私にはとても不思議に思われた。  そのあと、櫻井氏は「女子挺身隊の名のもとにトラックに女の子を詰め込んで連れて行った、という吉田清治さんの本を読んだときは、この人、頭おかしいんじゃないかしらと思った」と言い、「植村さんの記事は、これ(吉田証言)に呼応して、この吉田さんが書いている人がここにいましたよとして書かれたものです」とも語った。  そして、「(攻撃された)植村さんの奥さんやお嬢さんは気の毒です。私も今回のことでひどい目にあったからよくわかります。攻撃の一部はこの札幌から来ました」と“札幌への恨み”のようなことを語って主尋問は終わった。  そのあとは、植村氏の代理人である川上有弁護士による櫻井氏への反対尋問が始まった。  冒頭は再び「連行」という言葉をめぐって若干のやり取りがあったが、それからは「櫻井氏の論文や発言の誤り」に焦点が絞られた。 「櫻井氏の誤り」とは何か。月刊『WiLL』2014年4月号、「朝日は日本の進路を誤らせる」という論文の中、櫻井氏は「(慰安婦だと名乗り出て日本政府を相手取って提訴した金学順氏の)訴状には、14歳の時、継父によって40円で売られたこと、3年後、17歳で再び継父によって北支の鉄壁鎮というところに連れて行かれて慰安婦にさせられた経緯などが書かれている」にもかかわらず、「植村氏は、彼女が継父によって人身売買されたという重要な点を報じなかっただけでなく、慰安婦とは何の関係もない女子挺身隊と結びつけて報じた」と書いた。ところが、訴状には「継父によって40円で売られた」と書かれていないのだ。それを指摘されて櫻井氏は、「これを書く前に訴状は見たが、見方が足りなかった」「ほかにそう書いてあったものと混同した」と弁明しながらも、自らの間違いを認めた。  その後、川上弁護士は、櫻井氏が同じ間違いを産経新聞や月刊『正論』といった紙媒体、「BSフジ プライムニュース」や「たかじんのそこまで言って委員会」といったテレビ番組でも繰り返したことを、ひとつひとつ資料を提示しながら「櫻井さんはこう書かれましたか?」と確認を取り、「ではこれも間違っているんですね?」と迫った。  途中、川上弁護士は「本当は櫻井さんは(訴状に)40円で売られた、と書かれていないことを知っていたのでは?(つまり意図的に虚偽の発言をしたのでは、ということ)」という踏み込んだ質問をしたが、それに対しては櫻井氏は「いいえ」と強く否定し、「(誤りを)正すことをお約束したいと思います」とそれぞれについて約束したのだ。
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櫻井氏側の弁護士が声を荒げるシーンも
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