香山リカが「沖縄差別」を考えるため高江に向かった【後編】
(前回のあらすじ……8月31日から9月2日まで沖縄県北部の東村(ひがしそん)・高江集落に行ってきた。アメリカ軍が建設を進めているヘリパッドへの住民による抗議活動とそれへの機動隊による警備をこの目で見るためだ。
高江には全国から500人ともいわれる機動隊が投入され、異常なほどの過剰警備の状態が続いているときいていたが、現地で目にしたのはまさにその「圧倒的多数の権力」と「少数の一般市民」とが対峙している姿。
そして、ついに建設現場に砂利を搬入するトラックを監視する自家用車の隊列に加わっていた私も、機動隊員に走行を止められ、その場からの移動を禁じられるという事態に陥ったのだ。スマホも通じないところで、弁護士などに相談することもできない。
その場に止め置かれて2時間、ついに道路の彼方から砂利を積んだトラックが10台ほどの隊列を組んで現れ、路肩に立たされている私たちの横を悠然と通り過ぎて行った)
炎天下での2時間に及ぶ拘束で疲れきっていたにもかかわらず、何人かは声を振り絞って「来るな!」「建設は違法!」などと叫んでいた。しかし、そんな声でトラックが止まるはずもなく、隊列は道のかなたに消えて行った(写真1)。
⇒【写真】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=1218818
「このために私たちはずっと立たされていたのか」と悔しい気持ちがわき出ると同時に、「やれやれ、ようやく動ける」と正直に言うと安堵するほど私は疲れていた。すでに時間は10時。なるべく早くこの場を離れて那覇に向かい、以前から約束していた新聞社やテレビ局の記者たちに会った後、飛行機で東京に戻らなければならないのだ。
しかし、トラックが去ったにもかかわらず、いっこうにクルマの前輪にはめられたアングルがはずされることはない。「どうしてですか」と尋ねても、相変わらず機動隊員からの返事はない。その場にいる人たちから、「トラックが砂利を下ろして戻るまで、動かさないつもりだよ」という声が上がった。
結局、それからトラックは3回ほど砂利の積み場所と建設現場を往復し、その間、私たちはずっとそこにとどまっていなければならなかった。拘束は8時から11時までの約3時間に及んだ(写真2)。
いちばんきつかったのは、からだ以上に「人間扱いされない」「個人として見てもらえない」ということだった。機動隊のリーダーは、私たちを「アレ」と呼んでいた。「ほら、アレも見てろよ」と命じると、部下が上司からアゴで示されたほうに駆けて行って、クルマの回りを歩いている男性や山の斜面を上がろうとしている女性のそばにピタリと貼りつく。そして、それ以上、移動しようとすると「動かないで」と制止するのだ。
私の場合、先に記したような“事情”もあった。那覇でのメディアとのアポや飛行機の時間である。しかし、「この後、仕事があるのですが」などといくら語りかけても何の反応も返ってこない。私も「アレ」のひとり、というかひとつにしかすぎず、個人的な事情や立場などはいっさい考慮されないのだ。そんな中、メディア関係者だけは移動が許可されているらしく、1時間にひとりほどそのあたりを通過する。東京でも何度か世話になっているIWJの腕章をつけた記者がやって来たときは、思わず「私、香山リカというのですが」と名乗りながら声をかけてしまった。
その記者は直接の知り合いではなかったが、私の名前を知っていたようで「え、香山さん、こんなところでどうしたのですか。よかったら状況をインタビューさせてもらえませんか。あとから動画を流しますので」ときいてくれた。私は、ようやく「アレ」から「香山リカ」と固有名や顔を持つ存在になれたのがことのほかうれしく、ほっとしてカメラに向かって現在の状況をやや多弁がちに語ってしまった。
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