「やばいな、これ。ひょっとして俺、死ぬ?」――世界23か国、2年と8か月も続けた「世界一周花嫁探しの旅」をやめる理由〈第42話〉
【9か国目 UAE(アラブ首長国連邦)】
その後、中東のドバイに飛びました。初めて行く中東のイスラムの国は、アジアとは何もかもが違い、正直戸惑いました。1日に5回、モスクと呼ばれるイスラム教の礼拝堂からお祈りの時を知らせるアザーン(拡声器から大音量で発せられる男性の声)が町中に響き渡ります。それだけでもドキドキし、まさに異国の世界に降り立った感覚がしました。世界一の高層ビルディングを眺めながら耳にするアザーンはとても不思議な感じがして、どこか心を揺さぶるものがありました。
1969年大分県生まれ。明治大学卒業後、IVSテレビ制作(株)のADとして日本テレビ「天才たけしの元気が出るテレビ!」の制作に参加。続いて「ザ!鉄腕!DASH!!」(日本テレビ)の立ち上げメンバーとなり、その後フリーのディレクターとして「ザ!世界仰天ニュース」(日本テレビ)「トリビアの泉」(フジテレビ)をチーフディレクターとして制作。2008年に映像制作会社「株式会社イマジネーション」を創設し、「マツケンサンバⅡ」のブレーン、「学べる!ニュースショー!」(テレビ朝日)「政治家と話そう」(Google)など数々の作品を手掛ける。離婚をきっかけにディレクターを休業し、世界一周に挑戦。その様子を「日刊SPA!」にて連載し人気を博した。現在は、映像制作だけでなく、YouTuber、ラジオ出演など、出演者としても多岐に渡り活動中。Youtubuチャンネル「Enjoy on the Earth 〜地球の遊び方〜」運営中
ドバイは物価がバックパッカーにはクソ高すぎるため、インド人やバングラデシュ人などが滞在するアジア人労働寄宿舎に滞在しました。5つ星を超える7つ星の絢爛豪華なホテルやレストランが並ぶなか、労働者としてドバイにお金を稼ぎにきているアジア人たちと生活を共にすることで、少し違った角度からドバイの街を見ることができました。発展途上国のアジア人にとってドバイは夢の国です。大きなお金を稼ぐことができます。彼らは夢に満ちあふれていました。その反面、あんなに生き生きとしていたインド人のあのナチュラルな笑顔が、ここドバイでは曇っていました。理想と現実のギャップに悩んでいたのかもしれません。そしてほんの少しだけですが、スカした都会人のようになっていました。まるで嫌な東京人みたいです。『大都会とお金』、その魅力は少しばかり人間を不自然に変えてしまうのかもしれません。
【10か国目 オマーン】
ドバイから陸路でオマーンへと入りました。オマーンはドバイと少し異なり、伝統的な文化が残る敬虔なるムスリム(イスラム教徒)の国で、ほとんどの人がイスラム教の衣装を身にまとっていました。バスの運転手や乗り合いのルートタクシーの運転手、ローカルレストランのスタッフまでムスリムの衣装を着ているという徹底ぶりです。厳格なるイスラムの街の雰囲気に少々怖気付きました。なんせオマーン人はニコニコ笑うわけでもなく、終始厳しい顔をしています。きっと文化の違いだと思います。宗教着がその異文化感を強調させているようにも感じました。
オマーンではなかなかのトラブルが起きました。宿を移動するのにバスのルートを大きく間違えてしまったのです。焦った俺は、22キロのバックパックを背負い、乗っていたバスを何も考えず飛び降りてしまいました。しかし、降りた先は砂漠の真ん中。人っ子ひとりいない。バスが来る気配もない。車すら通らない。そりゃそうです。そこはただの砂漠の一本道です。
体感温度は45度を超えていたと思います。それ以上あったかもしれません。太陽の日差しは刺さるほど痛く、逃げ込む物陰なんてありません。最悪なことに水もバスの中ですべて飲みきってしまっていました。
「やばい。これはやばい。水がないのがとにかくやばい。どうしよう?」
小さい時、本で読んだことのある「砂漠で水がない」ってやつです。
俺は気持ちを静めるためにタバコを一本吸おうとしました。
「ゲホ!」
えづいてしまいました。砂漠は乾燥しすぎているためタバコすら吸えません。息を吸うと熱い空気が肺に入ります。
その時です。突如目の前がぐるぐると回り始めました。
「蜃気楼?」
急に激しい耳鳴りが始まり、めまいがしました。俺は立てなくなり、崩れるように倒れ込みました。
「やばいな、これ。ひょっとして俺、死ぬ?」
俺はその場で横たわって車を待つことにしました。22キロのバックパックを持って歩くより車を待つほうが効率がいい。いや、目まいが激しいからそれしか打つ手がない。2時間ほど砂漠で横たわっていると、思考をするのが面倒くさくなってきました。
「やばいやばい。意識をちゃんとさせないと」
「おかしいな? 俺、83歳と3か月まで生きるはずなんだけどな」
灼熱の砂漠のど真ん中で、俺は不思議と冷静に自分の運命を受け入れる準備を始めました。
<近日公開! 緊迫の「さよなら、バツイチおじさん・中篇」へつづく>
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