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コンドームを買わせてくれないドラッグストアで飾る、有終の美――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第8話>

「ありがとうござ……グフ……ウェ……ブフウア」

10分くらい歩くと、この地域特有のチェーン店だろうか、あまり聞いたことのない名前のドラッグストアが目の前にそびえ立っていた。自動ドアに書かれた閉店時間を確認する。10分前だ。ギリギリ大丈夫だった。意気揚々と入店した。 「いらっしゃいませ!」 おかしい。店員が入り口のところで一列になってお出迎えだ。6人くらいはいただろうか、店長クラスと思わしきおっさんと、パートっぽいおばちゃんが5人、入り口に整列して出迎えてきた。一流の温泉宿みたいな出迎えだが、あくまでもここはドラッグストアである。この出迎えはおかしい。 ただコンドームを買いに来ただけなのに途方もない出迎え方をされてしまい狼狽した。一万人目のご来店とかだろうか。なんだなんだと周囲を見回すと、デカデカと貼られた「お知らせ」が目に入った。 「長らくのご愛顧ありがとうございました。当店は〇月△日を持ちまして閉店となります。以降は□□店をご利用ください」 今日の日付だった。 なんと、この店は今日限りで閉店してしまうらしい。店の造りからしてなかなか古いのでかなりの歴史がありそうだが、その長い歴史が今日、終わるようだ。それもあと10分ほどだ。 とんでもないタイミングに来てしまった。だから最後の挨拶にと一同で整列していたのか。よく見たら閉店セールか何かで売りつくしたのか、棚もスカスカだった。略奪に遭ったみたいになっている。 「ありがとうございました」 店員一同は出ていく客に深々と頭を下げていた。その光景を見ていたら店長と思わしきハゲたおっさんが急に泣き出した。 「ありがとうござ……グフ……ウェ……ブフウア」 自らが守ってきた店が最後を迎え、感極まったのだろうか。そこには守れなかったという思いがあったのか、はたまたやりきったという思いがあったのか。どちらにせよその涙は美しいものに思えた。 「店長ぅ……」 その店長の涙に反応して、パートのおばちゃんたちも泣き出した。店長は人望が厚かったのだろう、輪になるようにしてお互いを讃えあっていた。そう、あの涙はやりきった涙だったのだ。美しい。全てが美しい。全員がここまでの想いを持って働くことなど普通はありえない。 (むちゃくちゃコンドーム買いにくいな) そう思った。お互いが涙で讃えあう、ドラマだったら確実に下方にスタッフロールがやや速い速度で流れ始める場面だ。一番いい場面だ。そこに「うすうす」と軽薄なフォントで書かれたコンドームを持ってレジまで行けというのだろうか。軽薄にもほどがある。どこの世界にそんなツワモノがいるというのだろうか。いるならば連れてきて欲しい。 まいったな。ここはお茶を濁してマスクとカテキン茶でも購入して、コンドームはコンビニで買うか、そう考えていた。するといよいよ閉店時間というか、この店の長い歴史に終止符を打つ時間が迫ってきたのか、店内に蛍の光が流れ始めた。 それを聞いてさらに感極まったみたいで、上沼恵美子みたいなパートのおばちゃんが声を上げてさらに泣き始めた。 「うわーん、わたしもっとここで働きたかった」 それを受けておっさん店長が声を上げる。 「すまん、力不足ですまん!」 それでまた輪になる。なんだこれ。
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黄泉の国の住人、颯爽と現る
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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