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SNSで”忙しいアピール”をするおっさんと、金魚の墓場――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第5話>

 昭和は過ぎ、平成も終わりゆくこの頃。かつて権勢を誇った“おっさん”は、もういない。かといって、エアポートで自撮りを投稿したり、ちょっと気持ちを込めて長いLINEを送ったり、港区ではしゃぐことも許されない。おっさんであること自体が、逃れられない咎なのか。おっさんは一体、何回死ぬべきなのか――伝説のテキストサイト管理人patoが、その狂気の筆致と異端の文才で綴る連載、スタート! patoの「おっさんは二度死ぬ」【第5話】SNSで見る“忙しいおじさん”の実態  町内会の夏祭りで獲った金魚たちが死んでしまった。  絶対に参加しなければならない「お楽しみ参加券」という半強制的システムにより挑戦した金魚すくいはずいぶんと良心的で、少々の無茶をしても和紙が破れることはなかった。早めに破り去りたかったのに、あれよあれよという間に活きの良い金魚が3匹、しっかりと獲れてしまったのだ。  そこからが大変である。急いでホームセンターに行き、水槽とエサと水濾過装置を買った。そうそう、泡をブクブクさせるやつも買った。なんとかそういった設備を整えて水槽を見ると、金魚たちはエサを欲して忙しそうに口をパクパクさせて泳いでいた。  その金魚が死んだ。3日ももたなかったかもしれない。僕の飼い方が悪かったのか、それとも最初から病気だったのか。とにかく、あまりに早い別れである。悲しみと申し訳ない気持ちになってしまった。こんな気持ちになるくらいならやはり獲るべきではなかったのである。  短い時間ではあるが共に過ごした金魚たちを手厚く葬ってあげたかった。けれども、我が家は完全無欠の団地なので埋葬するスペースが一切ない。仕方がないので、近所に住む同僚の家で埋葬させてもらうことになった。  彼は成功者である。庭付きの立派な一軒家を近くに構えている。その庭の一角に色々な生き物を埋葬している「死のスペース」なるものがあるそうだ。  早速、その庭の片隅の「死のスペース」を掘り、金魚3匹を埋葬した。同僚も手伝ってくれた。そこで、金魚の冥福を祈っていると、同僚が「全然関係ないけど」と前置きした上でこう言った。 「最近忙しいんだろ? 死ぬほどの激務っていうじゃないか。体は大丈夫か?」  とんでもない。めちゃくちゃ暇である。ちょっと意味が分からない。  今や遠い部署に異動になってしまった同僚は知る術がないだろうが、まあ、ほぼ窓際レベルで暇なのがこの僕だ。どう拡大解釈しても普通程度の忙しさなので、激務で死にそう、なんてどこから生まれたデマなのか気になったくらいだ。 「暇だよ。すげえ暇」  謙遜でも何でもなく、本当に事実をありのままに伝えた。しかし、同僚は引き下がらない。 「おかしいなあ、オオシタが言っていたぞ、SNSで」  オオシタとは同じ部署の同僚である。窓際レベルは僕とほぼ同じくらいで、まあ、けっこう暇そうに日中を過ごしている。仕事をしていないというわけではないが、そこまで忙しくもなさそうで、程よく働けている、といったところだ。 「いやあ、オオシタも暇そうにしているよ」  そんな話をするが、同僚も引き下がらない。なんでも、オオシタのSNS投稿を見て、本当に過労死の危険があるのではと心配しているらしいのだ。  ひょんなことからオオシタがやっているSNSのアカウントを知った同僚は、ときどきチェックしていたらしい。そして、そこには悲痛なオオシタの叫びが投稿されていたようだ。 「ちょっと見せてくれるかな」  あまりに気になった僕は、その場でオオシタのSNSを見せてもらった。 「けっこう前にオオシタから教えてもらったんだけど、本人は忘れているかも。しばらく動いていなかったから。でも最近になって急に動き出したんだ」  同僚はそういってスマホの画面を見せてくれた。
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業務中でもお構いなしに投稿される「俺忙しいアピール」
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