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聖水、人妻、上戸彩。おっさんの風俗失敗談は、なぜ心打たれるのか――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第6話>

 昭和は過ぎ、平成も終わりゆくこの頃。かつて権勢を誇った“おっさん”は、もういない。かといって、エアポートで自撮りを投稿したり、ちょっと気持ちを込めて長いLINEを送ったり、港区ではしゃぐことも許されない。おっさんであること自体が、逃れられない咎なのか。おっさんは一体、何回死ぬべきなのか——伝説のテキストサイト管理人patoが、その狂気の筆致と異端の文才で綴る連載、スタート! patoの「おっさんは二度死ぬ」【第6話】 心を打つ風俗話  人の風俗話、それも失敗談はあんなにも心を打つのだろうか。  ここ日刊SPA!においても「坂口杏里が出勤しているデリヘルに行った男の渾身のレポート」が掲載されている。  友人から10万円借りて千葉から神戸まで移動し、坂口杏里を指名した男、しかしながらロクにサービスを受けることもできず、彼の聖戦は終わる。これはただの愚かな男の笑い話だろうか。いいや、その真摯な行動力と純粋な気持ち、それらに誰もが心を焦がす。そう、風俗の失敗話は人の心を掴むのだ。きっとそこには男の中に共通する熱い何かがあるのだ。  居酒屋で飲んでいた。  仕事上の付き合いのある人と打ち合わせを兼ねて、半個室のような店で飲んでいたのだが、相手のおっさん、けっこう偉い人っぽいのだけどいまいちノリが悪い。普通は酒でも飲もうものならある程度は打ち解けそうなものだが、彼の心は開かない。合コンにおいて一番ブスなのになぜかガードが固く、他のかわいい女にまでガードを促す女みたいな鉄壁さだ。  そもそも、ちょっとは打ち解けあうための会合なのに、なぜそこまで頑ななのか、いくら打っても響かない鐘のような反応に、一緒に来た部下っぽい人も焦り始めている。 「それでね、このあいだ自転車に乗ってスーパー行ったんですけど、サドル盗まれちゃって立ちこぎで帰ってきたんですよ。でも、しばらく走ったらサドルないこと忘れちゃって……」  最近のエピソードの中で一番ホットなものを披露する。こういう失敗談は人の心を掴みやすい。けれども彼の心には響かない。なんとも気難しいおっさんだ。固い貝みたいだ。  しばらくすると、おっさんは「ちょっと本社から連絡があった」と部下と一緒に席を外してしまった。個室に一人取り残される僕。なんだか上手くいかないなあとレモンサワーを飲んでいると、隣の個室から声が聞こえてきた。 「はい、それでは定例の報告会を始めます!」  明らかにおっさんであろう年配の声が聞こえてきた。個室と言っても天井付近のスペースは繋がっているので、普通に声が聞こえてくる。当たり前のようにその様子を伺い知ることができた。 「おうおう!」 「まってました!」  それを受けて他のおっさんも盛り上がっている。声の感じから察するに、おっさん4人くらいの集まりだろうか、妙なテンションを感じた。実は「おっさんは四人集まると異様にテンションがあがる」という古くからの格言がある。まさにそれだった。 「それでは私からはじめさせていただきます。以前から狙っていたデリヘルがありましてね、ホームページを見るとかわいい女がいっぱいなんですわ。その中でもどう見ても上戸彩だろって女がいまして、指名したんですわ」  軽快なトークが聞こえてくる。相当に喋り慣れていると見た。完全に耳がくぎ付けである。 「ホテルに入ってワクワクして待っていたら、ピンポーンって鳴りましてね、そら、上戸彩が来たぞってドアを開けたら、北島三郎みたいな男が立っているんですわ。聞くとね、女の子はすぐ来るけど安全のために先に金だけ取りに来たって言うんです。ああ、このパターンか、そう思ったんです」  すぐに他のメンツから声が飛ぶ。 「やばいね」 「それはやばいね」  どうやらこのパターンはやばいらしい。 「それでも上戸彩ですからね、怪しいと思いつつ金渡しましたよ。2万円。そしたらねえ、そこから1時間くらい待たされたかな。すぐに来るって言ったのに、1時間ですよ。もう2万払っているから帰るわけにもいかないし。ホテル代は嵩むし」  それを受けてまた祭囃子のように声が飛ぶ。 「だから言ったんだ!」 「ほら見たことか。先に金渡しちゃいかん!」 「言わんこっちゃない。徳永さんはいつもそうだ!」  どうも、語りべである徳永さんはこの手の失敗が多いらしい。 「1時間後、やっと来た女が、陰気なワカメみたいな女でしてね。まるで深海から来たみたいにジトっとしているんですよ。写真とは完全に別人。ブスですし、もちろん全然サービスしない。会話しない。あと磯みたいな匂いがしました。なんか全体的に濡れているの。上戸彩というよりはウェット彩ですよ」  なに上手いこと言ってんだと思うが、他のメンツはこれに大盛り上がり。ものすごく喜んでいて、「男が先に金をとりにくるデリヘルは危険」という意見で決着した。
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三橋さんの聖水への執着
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